第134話 ミドリムシ

 マジックバックをくれると言われて、思わずレッドキャップを仲間にしちゃったけど大丈夫だったかな? 聞く限りでは人は殺していないみたいだし、オレの言う事を聞くから平気だとは思うけど軽率だったかもな……。でも、今更、やっぱりなしとも言えないし、オレが責任を取ってしっかり管理するしかないか。


「よし、じゃあ、とりあえず解散で! それとルールというよりはお願いなんだけど、基本的に自分や仲間に危険が及ばない限りは、人間に危害を加えないようにして欲しいって事と、人目がある所では人間に変身していてもらいたいんだよね。もちろん、オレとニャンニャンだけの時は、別にそのままで良いんだけど」


「畏まりました」


「ケイさま! ジュリアたちの護衛をしてもらうのは、どうなのです?」


「おお、さすがニャンニャン! 良いかも。ごめん、解散って言ったけど、やっぱり、働いてもらえる?」


「何なりとお申し付けください」


 しかし、四人の見た目を口で伝えるのは余りにも難しそうだったので、カバンから紙を取り出し、四人の姿を念写してレッドキャップに渡す。


「それじゃあ、その四人の護衛を密かにしてもらえる? それともう一つ、重要な任務があるんだけど……この子なんだけど、見て!」


 そう言って、念写した四人の中のマルチナを指さして事情を説明する。そして、もしもこの子が変身するような事があったら、怪我をさせないように無力化して欲しい事を伝えた。


「なんと、ライカンスロープが……。それにしても、我が主の念写の精密さは、流石としか言いようがありません」


「そうなのです。ケイさまは凄いのです。これからも畏れ敬い、ひれ伏すがいいのです」


「ちょっ! ニャンニャン! 普通でいいです。普通で……っていうか、我が主も普通じゃないから、これからはケイでいいよ」 


「……畏まりました。これからはケイさまと呼ばせていただきます」


「分かった。じゃあ、四人の事はよろしくね……ん? どうした?」


 返事をした後のレッドキャップが、妙にモジモジしているので気になって聞いてみる。


「いえ……あの恐れながら、お聞きしたいのですが、その獣の名前は我が、いえ、ケイさまがお付けになられたのでしょうか?」


「誰が獣なのです! シャーッ」


 やばっ! ニャンニャン、マジギレしてるじゃん。


「ニャンニャン、落ち着いて! お前も駄目だぞ。種族の違いで仲間を見下したりするなら、さっきの話もなしだ」


「そうなのです。こんな奴、仲間にしなくていいのです」


 自分が入れろって言ったくせに……。


「……も、申し訳ありませんでした。どうかそれだけはお許しください」


「謝る相手が違うぞ! それにニャンニャンはオレたちのパーティーの副リーダーだからな」


「そうなのです」


 ニャンニャンが腰に手を当てて、レッドキャップのまえに仁王立ちする。


「…………わ、悪かった」


「分かればいいのです! でも、次はないのです」


 レッドキャップの苦々しい表情からも渋々謝っているのは明らかだったが、一応は謝ってニャンニャンも許した事だし今回はこれで良しとしよう。

 

「じゃあ、今回の事はこれで仲直りで終りね! で、なんだっけ? ああ、ニャンニャンの名前か……確かにオレが付けたけど、何で分かったんだ?」


 どうやら、妖精族の名前らしくなかったのでピンときたようだ。ん~まあ、そうだろうね……。それで、またしても自分にも名前を付けて欲しいという事らしい。だから、オレには名づけのセンスは無いんだって! う~ん……レッドキャップ、レッド、赤ちゃん、赤さん、帽子、ルージュ、真紅……シンクいいかも……。


「よし、シンクなんてどう?」


「ありがとうございます。これから私はシンクと名乗らせて頂きます。では、このシンク、始めて頂いた命令を見事に果たして参ります」


 そう言って部屋から出て行ったシンクの背中にオレは『よろしくね~』と声をかける。


「あんな奴の名前はミドリムシでよかったのです」


「ニャンニャンもそんな言い方は無いでしょ! 最初にニャンニャンが仲間に入れた方が良いって言ったんだからね! ちゃんと仲良くしてくれないと……」


「わ、分かったのです」


 ちょっと、先行きが不安だな……でも、シンクは契約魔術で縛っているから、口喧嘩ぐらいで収まるとは思うんだけど……。





 ♦ ♦ ♦ ♦





「そろそろ、宿の夕食の時間だし帰ろっか?」


「そうだね!」「うん!」「早く、帰ってこの仮面外したい」


「分かる。何かよく分かんないけど、いつもより疲れるよね。でも、仕方ないよ! これのおかげで絡まれなくなったし……」


 ふむ、護衛の対象はあの人族のメスどもか……。明らかに弱々しくて、我が主の役に立つとは思えないが、もしかしたら繁殖用に育てているのかもしれない。どうやら、あの背の高いメスがライカンスロープのようだが、あの程度なら無力化も容易だろう。シンクは四人を護衛すべく、気配を消して屋根の上から様子を窺う。この気配隠蔽を見抜ける者がこの領内にいない事は、すでに調査済みだ。最近、この領に来られた我が主とあの忌々しい獣を除いては……。


 その時、強化をしている聴覚が、ある男たちの会話を聞きつける。


「おい、今日はあの仮面のやつらだ。上手くいったら、いつもの場所に持ってこい。それと捕まっても、俺たちの名前は絶対出すなよ。分かったな」


「…………で、でも、強そうです」


「馬鹿野郎! だから、金を持ってるんだろうが、さっさと行け」


「痛い」


 殴られて、小さな体が地面に倒れる音が聞こえた。


「おい! 殴るなら仕事が済んでからにしろ!」


「だって兄貴、こいつが口答えするから」


 ふむ、ガキを使ったスリか! 丁度いい、あのメスどもの実力を見てみるか。

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私が聖女? いいえ、そもそも男です。 東雲うるま @kemuri0812

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