第133話 採用~!

 レッドキャップの話だと、ホルトに召喚され強力な魔導具で隷属させられていたのだという。強力な魔導具か……それなら腑に落ちるな。話を聞く限りでは、レッドキャップを隷属させる程の力がホルトにあったとは思えないかったし、そこは疑問だったんだよね。そして召喚されてからは擬態の杖を取りに行かされたり、オークとゴブリンにレンドール男爵領を襲撃させる準備もさせられていたそうだ。


「えっ! あのオークにここを襲撃させる気だったの?」


「はい、偶々、擬態の杖を取りに行った時に、はぐれのオークを見つけた事を伝えたところ、思いついたようです。結局は襲撃してきたところを、私に対処させて自分の手柄にするつもりだったようですが……」


 なるほど、マッチポンプか……。レッドキャプからのヘイトを溜めていく事に躊躇がないな、頭が悪いのか、魔導具の効果ににそれだけ信頼があったのか……?


「これは私の推測ですが、あのホルトという男は、ここの領主の妻への情欲を利用されたのではないかと思われます」


「えっ? 誰に?」


「私も隷属されていた身だったので、詳しくは調べられなかったのですが、おそらく、この領に隣接した領土を持つラスピ男爵かと……」


 そういえば、領土の境界線の位置で揉めた事があったとか誰かに聞いたかも……。


「具体的にはどうやって利用されてたの?」


「夢魔を使い、都合のいい夢を長期的に見せて現実と夢を曖昧にしていき、ホルトの行動を自分の有利な方向に誘導していくのです。これは夢魔の痕跡を感じたので確かだと思います」


 確かに隣接した領の領主が亡くなって、自分が操っている人間が領主の座についても、知識がないその子供が領主になるにしても、どっちにしろ領土の境界線の交渉は有利になるか……。


「そこまでして領土を広げたい理由は何なんだろう? 単純に権力や権利の拡大?」


「境界線の近くにダンジョンが発見された報告があったので、おそらくそれかと……」


 どうやら境界線付近のレンドール男爵領側に、最近、ダンジョンが発見されたそうなのだが、それを先に見つけたのが、ラスピ男爵側の人間だったという事だった。それが公になる前に境界線をずらして、ダンジョンを自分の物にしようとしたって事? 


「ダンジョンって魔物が出てくるんだよね? 危険だし管理が大変そうだけど、それでも欲しいんだ?」


「ケイさま、ダンジョンはその危険を上回る程の利益があるのです。地上で魔物を狩るといなくなりますが、ダンジョンはダンジョンが息絶えるまで、ほぼ永久的に魔物が生まれてくるのです。それにその魔物がアイテムを落とすようになるし、宝箱も見つかる事もあるのです」


「えっ? ニャンニャンも行ったことあるの?」


「……ないのです。本で読んだのです」


「えっ? ちょっと待って、今、息絶えるって言わなかった? ダンジョンって生き物なの?」


「あたちはそう習ったのです……」


 話を聞くと、ダンジョンコアと呼ばれる大きな魔石を核としたサンゴのような生き物? で、魔物を召喚したり、宝などで自分の消化器官におびき寄せて戦わせ、その屍を吸収するのだそうだ。その時になぜか魔石の他にもアイテムが落ちるのだという。つまり洞窟だと思っていた物が、生き物の消化器官だったってオチか……。


「なんとなく、分かってきたっていうか繋がってきたな……。もしかしたら、レンドール男爵が視察にいったていう鉱山だったかが、ダンジョンだったのかもな……。でも、今思ったんだけど、おまえを利用はしようとはしてるけど、殺そうとはしてないんじゃない? あの程度のオークならお前なら余裕で倒せそうだし」


「私を殺そうとした証拠なら、私の魔法袋に入っているはずです。奴は愚かにも私を生贄にして上位の悪魔を召喚させようとしていたのです」 


 ホルトはアホの子なのか、レッドキャプを生贄にして悪魔を呼び出す魔法円の下書きと、計画書を堂々と机の上に置いたままにしていたのだという。ここまで、愚かだとわざとレッドキャップに気付かせる為に、第三者が仕組んだとも考えられるが……。


「なるほどね……それで何故かホルトが狼になってお前は難を逃れたと……」


「……擬態の杖の練習をしたそうだったので、一番簡単な変身は獣だと教えただけです」


「そういうことね……」


 ホルトは洗脳的なもので操られていた訳だけど、こういう場合はこの世界の法律ではどうなるんだろうね? 名前、忘れたけど隣の領主とかも関わってるし、一応、報告だけしてオレの仕事は終わりでいいのでは?


「ん~まだ、聞いてないこともあるかもだけど、約束は約束だから腕を治してあげるね。こっちにきて」


 オレに近づき、跪いたレッドキャップの腕に向かって、心の中でエクストラヒールと唱える。すると切り落した腕がみるみるつながり、傷跡一つなくなる。レッドキャップは感謝の気持ちをオレに伝えた後、つながった自分の手のひらを見つめながら指を動かしている。どうやら成功したようだ。


「問題なければもう、行っていいよ! あと、これ、お前のマジックバック、擬態の杖だけはオレの友達の物だから返してもらったけど、はい!」


「あなたはゴブリンをも、友と呼んで下さるのですね…………。ど、どうかこの私もあなたの配下の末席に加えてはいただけないでしょうか? どんな汚れ仕事でも、必ずや命に変えても成功させてみせます。どうか、どうか……」


「ちょ、汚れ仕事でもってなんだよ! 人聞きの悪い」


「ケイさま、大きな組織を目指すなら、汚れ仕事ができる者は必要になってくるのです」


「えっ! ニャンニャンまでどうした? 大きな組織ってなんだよ?」


「配下に加えて頂いた暁には、魔法袋とその中身のすべてを献上させていただきます」


「…………採用~」

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