第132話 契約魔法

 体全体を包みこむ青色の炎には熱さはなく、そして何かに燃え移るようなことも無い。それどころか、どこからともなく力が湧き上がり、今なら誰にも負けないという絶対感すら感じている。この青色の炎はオレが使える神聖魔法の中でも、かなり高位に位置する【聖炎】を使った効果なのだが、それを見たレッドキャップは、無抵抗の意思を示すかのように変身魔法を解くと、静かに片膝をついて頭を下げた。それでも、従順にしているふりの可能性もあるので、ニャンニャンには拘束を続けてもらう。


 少しの様子見後、本当に抵抗をする気がなさそうだったので、オレは【聖炎】を消してレッドキャップに近づいた。その姿は赤い帽子を被っただけで、ミドリンと大差はないように見える。


「それじゃあ、契約魔法を使うけど、受け入れたって事で良いんだよな?」


 それに対して、レッドキャップは何も言わずに更に頭を深く下げる。オレはそれを見て肯定と判断し、契約内容が書かれた羊皮紙に血判を押させ、そして自らも血判を押すと、【契約(コントラクト)】を発動した。しかし、その途端にレッドキャップが急に苦しみだした為、魔力を注ぐのを止め一時中断する事にする。


「えっ? 何が起きたの? ニャンニャン、これは?」


「もしかしたら、もうすでに、何らかの魔法の支配下なのかもしれないです。考えられるのは洗脳や隷属なのです」


「それじゃあ、まずはそれを先に解かなくちゃいけないって事か……」


「ちょっと待って欲しいのです。洗脳や隷属の魔法には、大抵、解こうとすると発動する魔法や呪いが忍ばせてあるのです。なので、ケイさまの神聖魔法で呪いの耐性だけでもあげてから、やった方が良いのです」


「なるほど……本当にオレの知らない事ばっかりだな……。ニャンニャンがいてくれると助かるよ! ありがとうね!」


 お礼を言われてモジモジしているニャンニャンと自分に、念には念を入れて様々な防御魔法をかけ対策をしていく。一応、外部にも被害が出ないようにと、初めて使うのだが部屋全体に【結界】もはっておく。


「凄いのです。魔石や魔法円を使わない結界は初めて見たのです」


「えっ、そうなの? それも後で詳しく教えて! その為にもこっちを片付けないとね。じゃあ、始めようか」


 一度、大きく深呼吸をしてから、今度は【解呪ディスペル】を発動させる。すると、レッドキャップの足元に魔法陣が浮かび上がり、急にレッドキャップは体を激しく震わせたかと思うと、口から白い煙のような物を吐き出しパタリと倒れる。こわっ! その煙はそのまま空中にとどまり、何か顔のような物を形づくっていく。 


「……髑髏?」


「ケイさま、レイスなのです!」


 レイス? あのゲームとかにもよく出てくる幽霊みたいなやつね…………で、どうしようね? いまいち、ピンときていないオレにニャンニャンが叫ぶ。 


「アンデッドなのです。浄化、浄化なのです」


 そう言われ、慌てて【浄化】を発動する。するとレイスのなりかけ? に光が木漏れ日のように降り注ぎ、その白い煙は形を作りきる前に消滅していった。


「えっ? これで終わり? 意外とあっけなかったね」


 変身しきる前に倒すなんて、ちょっとヒーローもののタブーみたいで気が引けるけど、別に魔物とかアンデッドと正々堂々と戦いたいとか、真の力を出した相手と戦いたいとか、そういう気持ちは全くないからね。これからもスポーンキル上等でどんどんやっていこう。


「神聖魔法がアンデッドと相性が良いとはいえ、普通、レイスクラス のアンデッドは、一回の浄化では消滅させられないのです。多分、ケイさまの浄化は、普通の神官が使う浄化の何倍もの効果があるのです」


「そうなんだ……まあ、弱いよりはいいんじゃない?」


「それはそうなのです。でも、ん~~っ…………ケイさまだから仕方がないのです」


 ニャンニャンは途中で考えるのを諦めたようだ。それにしても、あれが本当の浄化の効果か……普段は消毒がわりぐらいにしか使っていなかったけど、浄化は思っていたよりもすごい魔法だったのかもしれない。





 ♦ ♦ ♦ ♦





 その後、気を失っていたレッドキャップを起こして、再度、【契約】の魔法を行った。すると契約書が空中に浮かび上がり燃え尽きた。どうやらこれで契約完了となったらしい。ちょっと、焦ったのは内緒。


「それじゃあ、始めるか! 腕を治すのは、質問に正直に答えてからな! まず、何を聞くべきか……? ん~~っ……本物のホルト師団長は今、どこにいるんだ? っていうか、生きているのか?」


「…………目撃情報もありましたので、多分、森の浅いところに潜んでいると思われます。まあ、討伐されるのも時間の問題かと……」


「討伐? 殺し屋を雇ったのか?」


「いいえ、私は冒険者ギルドに、街に出没した白い狼の討伐依頼を出しただけでございます」


「まさか、その白い狼って……」


「フッフッフッフッ、ご明察の通りでございます。奴は擬態の杖を使い、誤って狼となってしまったのです。狼の声帯では詠唱どころか、人語を話す事すら難しいとも知らずに誤ってね……。悲しいかな、その姿で人族に見つかれば討伐は免れないでしょうな」


 ニヤニヤしながら誤った誤った言っているが、どうせこいつがホルトを狼に…………いや、こいつは契約魔法で縛っているから、オレに嘘は言えないのか……。


「いやいや、それにしたってお前が討伐依頼を出す必要はなかっただろう! お前ぐらいの力があったら、元に戻してやる事も出来ただろ?」


「わが主よ、何をおっしゃっているのですか? 何故、自分を殺そうとした者を、元に戻してあげる必要があるのでしょうか? 相応の罰を与えて何が悪いというのですか?」


「誰があるじだよ……」


 これも嘘じゃないとするとホルトに殺されそうになったって事か……。そう思うと次の否定の言葉は出てこなかった。それを言うと人間だから許せと言っている事になってしまうから……。

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