第12話

 あの日――ゲロをつまらせた親父を無視して、おれは家を飛び出した。何も知らず、泣いているさとを引っ張って。

 死ねと思ったわけじゃない。

 でも、もうどうなってもいいと思った。

 さとの手をかたく握りながら、おれはうまくいきますようにと願っていた。

 その通りうまくいって、嬉しかった。もっとはやくこうしてればよかったと、思った。

 でもそうして今、おれになにがあるんだろう。

 だから、おれは――



 兄の腕が私を抱きしめる。私も兄を抱きしめ返した。

 そうだ。

 私達は、どうあっても今ここにしかいられない。

 だから、かたく互いを抱きしめて、楔にするしかない。

 みにくい太陽に、これ以上置き去りにされないように。

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小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa

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