第9話:9.木を隠すなら森の中、風の行方は誰も知らない

 王宮魔導士達と兵士たちが部屋に踏み込んだ時には、魔術師達は全員が意識を失い、ナルデナ公爵はシルアに制圧されていた。


 拉致された女子生徒達も無事に保護された。


 部屋に大勢が踏み込んだ途端、デーティアは強い魔力で絡めとられ、気づくと寮の自室に飛ばされていた。


 デーティアにはわかっていた。

 シルアは手柄を独り占めするためにデーティアの関与をないものとしたのではなく、隠してくれたのだ。

 デーティアには王家に知られたくない秘密がある。


 デーティアはシルアの帰りを静かに待った。

 寮も学園も閉鎖されていたが、デーティアのように自宅に帰れない者達は寮に残り、食事やその他の生活の世話をする者も残っていた。


 何事もなかったかのように過ごした三日後、憔悴した面持ちのシルアが帰ってきた。

 帰って来るなりデーティアに言った。


「あなたを探す者はもういません」

 デーティアにはそれで事足りた。


 シルアはデーティアには話さなかったが、国王と密談したのだ。


 やはり国王はデーティアの父親であった。しかしシルアの思った通り、国の脅威になる娘を迎える気はなかったのだ。


 何百年も生きる王族は不和の素でしかない。

 本人にその気がなくとも、利用する輩は現れないとは言えないし、デーティアにとっても何百年も王室に繋がれることは不幸でしかない。


 ただ父親として援助をしたいという言葉を、シルアは退けた。


「デーティアは自力で活路を切り開くことができる娘です」

ただ、高等部卒業の後、魔法学園に進む援助を求めた。


 ***


 女子生徒行方不明のからくりはこうだ。

 エリザが魔法道具を通じて、外部のナルデナ公爵側の人間と渡りをつけ拉致する生徒を選別する。その生徒の部屋に、魔法陣を隠し書きしたシーツを敷く。それを利用して寮に侵入し拉致したのだ。


 デーティアはその後もシルアに魔法の個人授業を受けながら高等部の教育を十五歳で修めた。


 シルアは高等部卒業後、デーティアに魔法学園への進学を勧めた。

 デーティアは「考える時間をください。三日後にお返事します」とだけ答えた。


 三日後、シルアがデーティアの部屋を訪ねるともぬけの殻だった。


「やられたわ」シルアは苦笑した。

 念のため贈った、居場所を知らせてくれる探索の魔法をかけたブローチは机の上に置かれていた。

 そのブローチの下には

「森に隠された木は風だったのです」

 と書かれた紙片がおいてあった。


 エルフの村は厳重な魔法で守られており、招かれた者、許された者しか入ることはおろか、場所も知れなかったのだ。


 後にデーティアは魔女となる。子宮の機能を捧げて、恋をしない魔女に。

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デーティアの学園生活~Amber Alert~≪赤の魔女は恋をしない6≫ チャイムン @iafia

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