第8話:交渉と欺瞞:巧言令色

 シルアは大きく息を吐き答えた。

「アンダリオが欲しいの。国王から、王宮からアンダリオを返して欲しいの」


 ナルデナ公爵は小さく笑った。

「その子供の魔力が強いと、いかに証明する?」

 シルアは怯まず答えた。

「呪いの準備をしてちょうだい。そして一人選んで。この子が魔力を供給するわ」


 しばし沈黙が場を包む。


「よし、こちらだ」


 ナルデナ公爵はある部屋に案内した。

 そこは呪いの儀式の準備が調っていた。


 デーティアはその部屋の中央の魔法陣の中に立たされた。


 一人の男がデーティアの額に触れた。

 男からはあの嫌な臭気が強く放たれていた。デーティアは怖気が立つのを必死に耐えた。


「さあ、魔力を注いで。『注意深く』ね」

 『注意深く』。

 デーティアはその意図を察し、注意深く調節した自分の魔力を僅かに男に注いだ。


 男は「おお」と声を上げた。

「この子供の魔力は潤沢です。この供給が我々五人に行き渡れば、数時間経たずに事を成し遂げられます」


「どう?」

 シルアが尋ねる。

「取引に応じる気になったかしら?」


 ナルデナ公爵はニヤリと笑い「よかろう」と応じた。


 魔法陣に残りの四人が入り、デーティアに触れる。

「さあ、魔力を注ぎなさい。十分にね」

 シルアは命じた。

 おぞましさに耐えながらデーティアは注意深く魔力を注いだ。

 最初は細くゆっくりと。

 男達が豊富な魔力に恍惚として我を忘れた頃を見計らって、徐に魔力の種類を変化させた。


 この悪臭芬々たる男達の魔法の源を破壊するために。


 暴れていいって言ったでしょ。


 デーティアは手加減しなかった。


 それを察したシルアはナルデナ公爵を魔力で拘束し、高らかに警報を鳴らした。


 王宮魔導士達と兵士たちが部屋に踏み込んだ時には、魔術師達は全員が意識を失い、ナルデナ公爵はシルアに制圧されていた。

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