第7話:潜入:虎穴に入らずんば虎子を得ず

 師匠に逆らう間もなく、デーティアは学園からナルデナ公爵家の町屋敷へ向かった。


「先生!先生!」

 シルアの後を必死に追いかけながらデーティアは問うた。


「たった二人で何ができるのですか!?」

「ああ」

 ふと思い出したようにシルアが立ち止まり振り返った。


「あなたを媒介にするように唆して売るのですよ」

「え?」

 デーティアは面喰った。


 シルアは少し笑って話し始めた。

「あなたのハーフ・エルフの素性と魔力の強さを利用させていただきます。あなたはわたくしに服従した振りをしてください」

「それで援軍を待つのですか?」

「ええ、ナルデナ公爵はあなた一人ですぐに儀式ができるとなれば躊躇しないでしょう。儀式と言うより呪いですね。その現場を押さえさせればいいのです」

「でも」

 デーティアはためらった。

「間に合わなかったら?」


「暴れなさい」

 暴れる?

「エリザを遠ざけた時のような遠慮はいりません。魔力で制圧しておしまいなさい。責任はわたくしがとります」


 シルアはナルデナ公爵の町屋敷の門を叩いた。

「ナルデナ公爵に取次ぎを。娘達の話と言えばおわかりになるはずです」


 ほどなく二人はバタバタとやってきた男達に引きずられるようにして、邸内へ通された。


「どこまで知っている」

 ナルデナ公爵は不遜な態度でシルアに問うた。

「ご子息を王位に就けるために国王を呪うのでしょう?確実に」

「それでどうするつもりだ。子供一人を連れて乗り込むとは愚の骨頂だとは思わないか?」

 シルアを嘲笑う。


「この子はただの子供ではありませんわ。ハーフ・エルフです。それも魔力がとてつもなく強く大きい」

 ざわりとナルデナ公爵の周りの男達が動くが、それを公爵が制する。

「それで?」

 シルアは微笑を貼り付けたまま続けた。


「娘達はこれから魔力を吸い取らねばならないのでしょう?それにはどのくらいかかるかしら?」

 艶やかに微笑む。

「十日?半月?半年?」

 ぐっと男達がたじろぐ。


「今は時を止める魔法をかけて無事なようだけど、目が覚めたら言うことを聞くかしら?抵抗したらどうするの?言うことを聞かせてももたなかったら?」

 ナルデナ公爵の目がすうっと細められる。


「この子ならば数時間あれば必要な魔力を供給できるわ。わたくしに服従しているから手間はかからないし」


 デーティアは門からずっと無表情を通してきた。いかにも服従した子供だった。


「まだ子供だから、これから何十年も魔力を供給できるわ。どう?」

「どう、とは?」

 ナルデナ公爵の声が渇いて響く。


「この子を買わないかってことよ」

「これはこれは」

 ナルデナ公爵の周りにいた男の一人が進み出た。


「王立学園の魔法教師シルアともあろう方が人身売買ですか。なぜ?と問うてもよろしいか」


 シルアは大きく息を吐き答えた。

「アンダリオが欲しいの。国王から、王宮からアンダリオを返して欲しいの」

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