Column3 「間、髪を容れず」の「間髪」の読みは「かんはつ」「かんぱつ」のどっち?
今回は「間、髪を容れず」について、取り上げようと思います。
☆
――
上記の一文を読んで、「はて?」と小首をかしげた読者の方はいらっしゃるでしょうか。
普通は「『間髪を容れず』で、『、』(読点)はいれないのではないか」と。
実は「かん、はつをいれず」と区切って読むのが、正しい言い方です。
また、「かんぱつをいれず」と「髪」を「ぱつ」と読みなくなりますが、正しくは「はつ」と読みます。
これは私の想像なのですが、読みの誤りの原因は「
「間、髪を容れず」は、元々『
『
そして「
**********(*2)
紀元前二世紀、前漢王朝の時代。枚乗は、呉という国の王が反乱を起こそうとしていると知り、思いとどまるように説得する文章を書いて差し出しました。その中で、このまま危険な目にあうか、それとも危険から逃れられるかは、「間、髪を容れず(間に髪の毛一本が入る余地さえないくらいの違いしかない)」だから、今すぐに挙兵をおもいとどまるべきだ、と述べています。
**********
上記の内容を読むと、戦いになるかどうかの状況が、
ですが、現在使われている「間、髪を容れず」とは違う意味で使われているのですが、お分かりになったでしょうか。
今でこそ「間、髪を容れず」は「少しの時間もないことのたとえ」という意味として使われることが多いですが、枚乗が伝えているときの意味としては「事態が非常に切迫していることのたとえ」(『故事成語を知る辞典』より引用/『精選版 日本国語大辞典』参照)として使われています。
もしかすると、「事態が非常に切迫していることのたとえ」から、その状況を変えるために「すぐに対応する」という風に転じたのかもしれません。(……というのは、あくまで想像ですのでテキトウに聞き流してくださいませ)
話を「間、髪を入れず」の読み方に戻しますね。
「間髪を容れず」は私が調べた限り、『明鏡国語辞典 第三版』『新明解国語辞典 第八版』『岩波国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』では「『かんぱつ』という言い方は誤り」としていました。
一方で『三省堂国語辞典 第八版』では、「
++++++++++
【かんぱつ[間髪]】『三省堂国語辞典 第八版』
ほんのわずか(の すきま・時間)。間一髪。
「間一髪の差」
・間髪を入れず。
→間、髪を入れず。
++++++++++
その上「
要は、『三省堂国語辞典 第八版』では、「かんぱつをいれず」と読むことを容認しているということです。
ただ、今のところはまだ「かんぱつ」は少数派のようなので、「かん、はつをいれず」と読む方が無難かなと思います。
◇掲載場所◇
『NIHONGO-Ⅱ-』2022年―7月―Column1
【補足】
<*1>
『三省堂国語辞典 第八版』では、「
この点について他の五冊の辞書(『明鏡国語辞典 第三版』『新明解国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『精選版 日本国語大辞典』『大辞林4.0』)を確認しましたが、どの辞書も「『間、髪を入れず』の『間、髪』を一語と誤って解釈した語」(『新明解国語辞典 第八版』より引用)というようなことが書いてあり、「間髪」を熟語として認めていないようでした。
よって、「間髪」を熟語として捉えるのは、まだ一般的ではないと考えられそうです。
<*1の内容について整理>
●「間髪」を熟語として捉えている辞書
『三省堂国語辞典 第八版』
●「間髪」を熟語として捉えるのは誤りとしている辞書(見出しあり)
『新明解国語辞典 第八版』
『新選国語辞典 第十版』
『精選版 日本国語大辞典』
『大辞林4.0』
『明鏡国語辞典 第三版』
●「間髪」を熟語として捉えるのは誤りとしている辞書(見出しなし)
『明鏡国語辞典 第三版』
<*2>
本文の説明で「間髪を容れず」「間髪を入れず」と、二つの表記があったことに気づいた方はいらっしゃるでしょうか。もし気づいていたら鋭いです。
実は辞書ごとの表記に従っているので、ここでは二つの表記が存在しています。
故事成語辞典や元々の言葉を重んじる傾向にある『精選版 日本国語大辞典』や『岩波国語辞典 第八版』を読む限り「間髪を容れず」が元の形なのかなと思うのですが、それ以外の辞書はどちらかというと「入れる」の表記の方が一般的なようです。
これは単なる推察ですが、「入れる」が「容れる」を包括しているので(「い」『Column2「入れる」「容れる」「淹れる」の使い分け』を参照)、「いれる」と素直に読める「入れる」という表記になっていったのかもしれません。
*「い」『Column2「入れる」「容れる」「淹れる」の使い分け』のURL
https://kakuyomu.jp/works/16817330663418963966/episodes/16817330663561905498
<*2の内容について整理>
●「間、髪を容れず」と表記をしているもの
『明鏡国語辞典 第三版』『旺文社国語辞典 第十一版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』『大辞林4.0』
●「間、髪を入れず」と表記をしているもの
『新明解国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『三省堂国語辞典 第八版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』
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