Column2 「辛党」は辛い物が好きな人?

 今回は「辛党」について、取り上げようと思います。


     ☆


「辛党」と「甘党」。この二つは対義語です。


 漢字の組み合わせや、周囲の人たちが言っているのを総合して、私は「辛党」は「辛い物が好きな人」、「甘党」は「甘い物が好きな人」とざっくり覚えていたのですが、きちんと辞書を調べてみるとどちらも違います。


「辛党」とは「酒類を好む人のこと」で、「甘党」は「酒よりは甘いものが好きな部類に属すること」(『明鏡国語辞典 第三版』より)というのが本来の語釈です。


 ということは、子どもに「君は甘党だね」とは言えません。

 その子が甘い物が好きだとしても、「お酒と比べて甘い物が好き」が甘党の本来の意味ですから、これは誤った言い方になるでしょう。


 しかし「辛党」に関しては、「辛い物が好き」という意味で使われるようになってきているようです。『三省堂国語辞典 第八版』では「からい食品が好きな人」という意味が掲載されていました。


 ふと、いつからその意味が受け入れられるようになったのかなと思い、『三省堂国語辞典 第版』も引いてみたところ、「[]からい食品が好きな人」と記載されていました。


 つまり第七版の出版当時「辛党」=「辛い物好き」として使う人たちが出てきていたようですが、辞書を製作する側は「誤った使い方」として認識していたということです。(もしかすると第六版でも同じような語釈があったかもしれませんが、残念ながら第六版は私の手元にないので、確認できませんでした)


 第七版は2014年に発行されているので、8年の間に「辛党」=「辛い物好き」という使い方をしている方々が増えていき、現在の語釈に落ち着いたと考えられます。


 ただ、『三省堂国語辞典 第八版』以外の辞書*1も調べてみましたが、新しい意味を載せているものはありませんでした。


 上記に述べた通り『明鏡国語辞典 第三版』に俗用として載っているのみなので、「辛党」=「辛い物好き」が新しい意味として使うときは検討をする必要がありそうです。



◇掲載場所◇

『NIHONGO ‐Ⅱ‐』2022年―5月―Column9


*1『新明解国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『旺文社国語辞典 第十一版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『大辞林4.0』『精選版日本国語大辞典』で確認しています。


★『ことば』までで使用していた辞書の内容のみを掲載しているため、『三省堂現代新国語辞典 第七版』『旺文社国語辞典 第十二版』の内容は反映させていません。

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