終わりは常に独善的

釣ール

魔の門

「うっ!うわっ、ぐほえっ!」


 怪奇現象の類を探せと監督の割に随分と純粋だ…そう思ってこの地を探索してたら案の定カルト集団だった。

 もっと分かりやすく言えば情報商材を売っている若手社長の溜まり場。

 しかも俺より二つ下で高校を卒業したばかりのガキ。


 ちなみにこちらから暴力は正当防衛すら振るっていない。

 オカルトとも心霊ともスピリチュアルとも言えない中途半端な教団は運だけは味方についていなかったようだ。


『随分昔のフィクションじゃ、ワタシみたいな怪異も捜査対象だったじゃない?

 結果、人類はその怪異の主に命を握らされているわけだけ、どぉ!』


 がはっ!と細くとも武力のある教団のメンバーが怪異になすすべも無くやられる。


「お前の証明をしたら実力で映像業界に上がれなくなる。

 そもそも誰かの下につきたくないと俺の仕事に手を貸す約束をしたのはどこの誰だ?」


 バディモノのフィクションじゃないんだ。

 仲良しこよしではない。

 俺も腕に自信はあるが暴力には頼らない。

 怪異もただ仕事のために教団を滅ぼしているだけだ。



『これぐらいリアルじゃ写せないねえ。

 怪異の暴力は超能力的に映えると思ってたのに。

 現実はうまくいかないものだ。』



 師である監督の愛の鞭は恐らく、俺が組んでる怪異を探るための実験だろう。

 それと同時に心霊関係には胡散臭い勢力が数多く存在する。

 この教団は表向きではアンチゴーストを装っているが、その実態はSNSや身内を使った人間による怪奇現象を崇め利用し、心身が弱った人間を対象にインチキビデオで信者を増やして事件を起こさせ、金を稼ぐ連中だった。


 監督は両親で俺達にこんなことをさせているわけじゃないことは知っている。


「本物を経験しろ」


 と試しているだけだ。



『こんな歴史ばっかりだな。

 早く俺以外の怪異が人間も滅ぼしてくれればいいのに。』



「お前達もなんだかんだで共存しているんだろう?

 無理さ。

 理想の共存なんて。」


 一つの教団を潰し、記憶も消した。

 映像は極秘で撮影したのちにこいつらは何もわからずしょっぴかれる。


 どのような教団であろうと信者にとっては本物の世界だ。

 それが終わった。

 カメラを取るだけで手を出さない陰湿な俺と、手を出すが俺以外見えない怪異とのタッグであっという間に。


『こうして他者が作り上げた歴史を自然現象として潰せるのは、怪異の特権だねえ!』


 終わりを記録したのならもう要はない。

 こちらの痕跡は怪異と俺が入念にチェックし削除。

 怪異による痕跡の削除は限度があって、現場の証拠隠滅は俺の仕事だった。

 そうしないと監督に怪しまれる。

 これで俺達の報酬は弾む。



 教団のアジトを抜けるとそこには女の子がいた。

 女の子が待つパンフレットを見てこの教団に魅入られた信者の身内と知った。


『健気な子だ。』


 怪異はため息をついていたが俺は女の子へ教団が急な解散を告げて信者である自分達にもう居場所がないことを教える。

 女の子は喜んでパンフレットを破り捨てた。


 そんなものだ。

 俺達の出会い方なんて、大抵成り立っていたものが消える瞬間。

 いい一期一会。


 女の子はまるで俺が肉親のように懐いていた。

 帰り道を教えてもらいないながら女の子を家まで送ると怪異が話しかけてきた。



『俺達で監督超えてやろうぜ。』


 乗り気になってくれて安心だ。

 俺もそのつもりだ。


 狂った監督にバレないように、技術を盗んで成り上がらないと。

 監督志望から助監督…それからあとはスモールステップだ。


 俺達は、いいコンビだ。

 なんだかんだで拳を合わせる自分達だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終わりは常に独善的 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ