第16話 あなたが禁忌を犯しているというのなら


「レティシアン様も納得されたようですし。モルは今日付でオレが貰っていきますね」


 旦那様からの冷たい空気から庇うようにヴァレルが話を切り出す。


「……まぁ、いいでしょう。私共と致しましても、優秀な使用人を突然失うのは痛手なのですよ。ですからヴァレル様、この件に関してより心を配って頂ければ幸いです」

「ええ、それなりの見返りを送ります」


 思ってもいないことをスラスラと言う旦那様。使用人ひとりの引き抜きに、いくら吹っ掛ける気だ。

 私1人が明日から居なくなったところで、この伯爵家には代わりの使用人が沢山居ると言うのに。

 そんな厚かましい発言にも爽やかな笑顔で返したヴァレルは、そのまま私の手を引いてパーティー会場を後にしようとする。


 そこでようやく、私たちの言動を見守っていた人々がざわめき出す。


「あ、あのヴァレル様が結婚!?」

「相手は、平民の使用人!?」

「伯爵家から言い値で買い取るなんて、かなりの入れ込み具合ね」

「もう国王様はご存知なのか?!」

「いやぁーーー、信じられないっ!」

「わたくしのヴァレル様………」

「ふふっ、平民の使用人如きがヴァレル様の妻ですって……そんなの絶対に許さないわ」

「きっと禁忌の魔術を使ったのよ。でなければあんな女にワタシのヴァレルが靡くわけがないものっ!!」


 阿鼻叫喚。

 特に、若い女性陣の悲鳴と怨嗟の声がけたたましい。令嬢に有るまじき取り乱しようだ。


「愛するダーリンに殺されなくても、嫉妬に狂った彼女たちに後ろから刺されそうだな……」

「安心してください。半年はオレが守ります」

「半年後は?」

「そうですね。半年後オレの爆発で王都が壊滅しなかった時に考えられては?」


 そういえば、そんな話もあったな。

 何もも対策をしなければ、半年後には彼を爆心地に、王都が更地になるとかなんとか。


「でも、何かしらの対策をこうじるのだから、本当に王都が地図から消える訳では無いよね?」

「はい。共に心中したいほど王国が好きではないので、1人寂しく死にますとも。そのために、あなたの手が必要なのです。ほら、言ったでしょう? 『オレと結婚して、オレを殺す手伝いをしてください』と」

「……あ。状況が危機的すぎて、内容まで頭回ってなかったや。改めて繰り返すと、とんでもねぇー台詞」

「そうですか? 要求が伝わりやすい良い文章だと思いますが」


 いや。文脈とか、言葉の繋がりとかそういう意味ですよ愛するダーリン。

 だって、告白に自殺予告ついてくるなんて、普通はないでしょう? 


「そもそも『殺す手伝い』とは?」


 自殺補助的なあれか……犯罪では?


「来る爆発の時までにオレをとある地底に閉じ込めて欲しいんですよね」

「自殺補助ではなく監禁……」

「封印です。人聞きの悪いことを言わないでください」


 いずれにしろこの男は、地底に閉じ込められたいことに変わりはないのだろう。


「地底に封印……なんか昔読んだ、悪鬼を封印した英雄譚にそんなのがあったな」

「ええオレは悪くて、危ない男ですからね」

「自慢げに言うと、一気に調子乗ってる中坊に見えるから不思議」

「悪魔の禁忌の力という実力も兼ね備えた本物の悪い男ですからね。そこのところ舐めないでください」


 自慢げに言っているが、この国で悪魔と関係を持っているイコール違反者。いわゆる法で裁かれるべき犯罪者である。

 あれ、ちょっと待って。この人なんでのほほんと貴族やってんだ?


「あの、つかぬ事を聞きますが。悪魔と関係を持っているということは、犯罪者ということでは? 騎士団とかに捕まるのでは? 大丈夫なんですか? 私に簡単にバレてるぐらいならもうヤバいんじゃ……!」


 

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世界を滅ぼす彼と使用人の私が契約結婚をするわけ イガリー @04310431hi

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