第1話 その光景は

 関西吹奏楽コンクール。

 背後にそうかかげげられている。


 僕は奏者しゅつえんしゃではなく、一年生にしてお手伝いがかり倍率二倍を手にした。小さな勝者だ。


「おいひかる。油売ってないで、小物を早く置け」

 持っていた小物置きを僕は所定の位置に置き、名残り惜しいが舞台を後にした。少し明るい空間に大勢の人。来年はあの場所に立つ。


 そう思い未来の自分を信じた。


 さて二年になり、獲得したポジションは。

 私立八神高校吹奏楽部雑務課雑談係しりつやかみこうこうすいそうがくぶざつむかざつむかかりだ。


 コンクールシーズンの七月末、楽器を磨かずに床をみがいている。窓を拭き、トイレを洗い、練習の準備にいそしんでいる。

 

 シード権があるので、大阪の地区大会という第一関門は通り抜け、大阪府大会にのぞむことになる。ここで金賞というグレードを獲得し、限られた学校しか選ばれない代表を貰えれば、次の関西で全国大会への挑戦権を奪取するための戦いが始まる。


「光。弁当は電話したから、取りに行ってくれ。光、唐揚げ好きやろ。おまけや」

 顧問の坂下先生に言われ、僕はすぐさま駐輪所に向かった。

 暑いな。でも夏やから当たり前か。


 そう思い、暑さ対策で学校の陰に止めた自転車にまたがった。

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