第2話 日陰生活も悪くない

「池本、ラインちゃんと踏めよ」

「熊田、タイミングが違う。横で歩くから見とけよ。一と二と三と、この最後のまで合わすんや」


 初めて聞いた人には一切理解が出来ないので、説明をする。

 今目の前にあるグランドはパレコンのマーチング用である。パレコンというのは全日本吹奏楽連盟が行うマーチングのコンテストで、マーチングというのは、人文字を作る競技のことを言う。


 それで何をしているのかというと池本の場合は五メートル四方にゴムテープが張り巡らされており、スタートの白ラインから直進五メートルの八歩目を踏んでいないから注意されている。


 熊田はというのが表拍、メトロノームで音が鳴る拍であるが、マーチングは裏拍のタイミングも求められる。それがなのだ。左足が一歩目なのだが、左足を踏み出して右足が左足の土踏まずを通る時点では入る。


 僕の今の仕事はその練習を見守り、怪我人の救護を行い、熱中症の部員に氷嚢ひょうのうと水分を少しずつ飲ませ、楽器の見張りをする。案外、仕事は多い。


 とは言え、みんなは暑い中せっせと練習しているのを高みの見物が出来、座っていられるのはいい気分だ。

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