第3話『ステファニー』 ※改稿予定です! 申し訳ございません!

 あれから数日後の朝。本日もレナルド様のお部屋に向かう。

 すると、もうレナルド様が起きておられて、お召し替えをなさっていた。

「おはよう、アリクス」

「レナルド様!? おはようございますっ! レナルド様のご起床に遅れてしまい、大変申し訳ございません!」

「え? いや、……すまない。私が早くこれをつけたくて、いつもより早く起きて、着替えていただけだ。アリクスは、ちゃんと時間通りに来てくれた。──ありがとう」

「レナルド様──。大変あたたかいお心づかいに感謝いたします」

 深々と頭を下げる。

「アリクス、頭を下げなくていい。本当に君は悪くないんだ」

「──はい」

 そっと顔を上げると、レナルド様が優しく微笑まれていた。

「ところで、この白バラのタイピン──似合うだろうか?」

「はい! とてもよくお似合いでございます」

「ありがとう。──このタイピンは、武器職人が作った『魔法で武器に変わる装飾品』で、いつもつけていたタイピンは、この武器をつけるための練習も兼ねていたんだよ」

「そうなのですか?」

「ああ」


 ──この白バラのタイピンが……?


 武器になる二つのタイピンには、金をベースに白バラと赤の結晶か青の結晶がついている。

「これはアリクスのものだから、受け取ってほしい」

「私の……ですか?」

「ああ、このタイピンは剣になるんだ。きっとアリクスの役に立つ」

 レナルド様がもっていたのは、白バラと青い結晶のついたタイピンで、レナルド様のものと、とてもよく似ていた。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




 昨日の朝。レナルド様のお部屋へお伺いした時に、お声をかけていただきました。

 朝の紅茶の支度をしていると、レナルド様がベッド横にあるサイドテーブルの引き出しを静かに開けられました。

「アリクス」

「はい、レナルド様」

 紅茶を入れる手を止め、レナルド様のお声で振り向いた。

「誕生日のプレゼントだ。受け取ってほしい」

「これは……」

「開けてみてほしい」

「はい」

 レナルド様に手渡された細長い箱の包みをそっと開ける。


 中には、白バラの万年筆が入っていた。


「白バラの万年筆──」

「ああ、アリクスに似合うと思って、用意してもらったんだ。私も持っている」

「おそろいですか?」

「ああ。レイモンド家には、白バラの万年筆を気に入った人に贈る習慣があるんだ」

「そうなのですね、初めて耳にしました。ご教示いただきありがとうございます」

「気に入ってくれただろうか?」

「はい! とても!」

 思わず笑顔になった私に、レナルド様が微笑まれる。

「一生、大切にいたします」

「ああ、そうしてもらえると嬉しい」

 心があたたかくなり、笑みをこぼした後、白バラの万年筆を胸ポケットに──大切にしまい込んだ。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




「この間も、短剣を二本と万年筆をいただいたばかりです」

「アリクスに受け取ってほしい」

「ですが……」

「これは君を護るものでもあるが、私を護るものでもある。私を護りたいと思ってくれているのならば、このタイピンを受け取ってほしい」

 レナルド様に優しく諭され、タイピンをそっと受け取る。

「はい! この命に代えても、レナルド様をお護りいたします」

「ありがとう、アリクス。これからも、よろしく頼む」

 レナルド様は、やわらかく微笑まれる。

「──はいっ!」

 今日は朝から悲しい顔ばかり見せてしまって──。

 初めてレナルド様の前で笑顔になれた。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




 次の日は休日。

 いつもとは違う休日に、暇を持て余していた私は、敷地内にある四季咲きの白バラが綺麗に咲く庭園へやって来ていた。

 そして──。


 その庭園の前には、ピンクのドレスを着た小さなご令嬢がいた。


 近づいてみると、前髪の上に三つ編みをしたオレンジの髪と横に光沢のある赤いリボン。首元には、ひらひらした白い襟が見える。

 ご令嬢は庭園の前で蹲り、声を上げずに泣いていた。


 髪も服装も違うのに、ご令嬢と小さい頃の妹の姿が重なる。


 ご令嬢の傍にそっと近づき、お声をかける。

「大丈夫ですか? お嬢様? おケガはありませんか?」

 涙を流されていたご令嬢は急にムッとしたお顔になる。

「なに?」

 できる限り優しく、お声をかける。

「私に教えていただけませんか? 役に立てるか分かりませんが、お嬢様のお役に立ちたいのです」

 ご令嬢はお顔をしかめられた後、再びお泣きになる。

「失礼いたします」

 胸ポケットからサッとハンカチを取り出し、ご令嬢の涙を拭かせていただく。

 お背中を優しくさすり、お気持ちが落ち着かれるまで、しばらくお待ちする。


 十分ほどお泣きになり、落ち着いたご令嬢は、今までの経緯をお話になった。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




「私は『ステファニー』。『ステファニー・シヴィッド』。外務大臣を輩出する一族『シヴィッド家』の娘なの」

 シヴィッド家の令嬢──ステファニーはポツリポツリと言葉を紡いでいく。

「私のお母様「パトリシア」お母様は美人で、きらびやかな見た目、気の強さ、家柄の良さから、周囲に嫉妬されていたの。

 それは、私も同じ。ううん、小さくて弱い私の方が風当たりは強かったわ。

 忙しいお父様とお母様。友だちは一人もいなくて……。

 メイドたちもみんな仕事に徹していたの。

 私と親しく話してくれる人は、一人もいなかったわ。

 さみしくて、頼りたくても頼れる人もいなくて、時間だけがいたずらに過ぎていく──。

 私は「いい子」をやめたの、「いい子」では伝わらないから。

 仲良くしてほしくて、私は次第にわがままになっていったわ。

 私の気持ちをわかって欲しかったの、諦めたくなかった!

 その後も、言いたいことを吐き出すようになっていって……。

 私の気持ちをわかって欲しかった。

 でも、どれだけ話しても、泣いて叫んでも、わかってもらえなくて──。

 独りで寂しかったの」




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




 ステファニーお嬢様のお話に心が痛んだ。

 お嬢様が悲しそうにしている姿が、どうしても妹と重なってしまう。

 どうお声をかけるか迷い、妹に接するように、できる限り優しくお話しする。

「ステファニーお嬢様。私がステファニーお嬢様のお友達になります。だから、もう悲しまないでください」

「──本当?」

「はい!」

「じゃあ、お手紙がほしいわ。あなたからの」

「──分かりました。ステファニーお嬢様に、必ずお手紙を書きます」

「本当に? 絶対よ?」

「はい!」

 お嬢様の不安を取り払うように、できるだけ、やわらかく笑う。

是非ぜひまた、この屋敷に遊びにいらしてください」

「ええ! ありがとう!」

 ステファニー様は花が咲くように笑われた。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




「今日、ステファニーお嬢様にお会いしました」

「ステファニーお嬢様? ああ、シヴィッド卿のご令嬢の」

「はい、ステファニー・シヴィッドお嬢様のことです」

「アリクスも会っていたのか?」

「はい」

「私も彼女と午後二時に会った。彼女は途中で席を外してから、しばらく帰って来なかった。……彼女と何かあったのか?」

「はい。今日の午後三時頃、ステファニーお嬢様が白バラ庭園で泣いていらっしゃって……お慰めいたしました」

「ステファニー嬢が泣いて……? アリクスと何を話していたんだ?」

「それは──、ステファニーお嬢様のご相談に乗っておりました」

「内容は……話せないのか?」

「はい、申し訳ございません。彼女の面目に関わりますので……」

 少しの間、沈黙が流れる。

「──分かった。アリクスが嘘を言うとは思えない。──君の言葉を信じよう」

「レナルド様のお心づかい、痛み入ります」

「いや、アリクスのせいではない。ステファニー嬢に対しての当然の配慮だろう」

「申し訳ございません、レナルド様。差し出がましいお願いをしても、よろしいでしょうか?」

「ああ、何だ?」

「ステファニーお嬢様とお手紙を交換させていただくことはできないものでしょうか?」

 レナルド様は目を見開かれ、驚かれる。

「ステファニー嬢と?」

「はい、誠に勝手ながら、ステファニーお嬢様に『必ずお手紙を書きます』と、約束してしまったのです」

「それは──」

「駄目でしょうか?」

 レナルド様をじっと伺う。レナルド様は少しの間、思案された後、大きな溜息を吐かれた。

「普通ならば許可されないが、身分違いとはいえ彼女のご意向だから、例外的に許可しよう。──私から、他の執事とメイドたちに伝えておくよ」

「レナルド様! ──いつも誠実にご対応いただき、心から感謝しております」

「──ああ。これで、ステファニー嬢も元気になるといいな?」

「はい! 本当にありがとうございます!」

 レナルド様は私の様子をご覧になり、少しだけ苦笑なさったが、何とか許可をいただけた。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




 二日後。早速、アリクスからステファニーの元に手紙が届いた。

 クリーム色の壁にオレンジの屋根、広くて大きな城と見紛みまごうばかりの屋敷は、三方を湖に囲われ、玄関の前には緑の庭園が広がっている。バラの彫刻が施されたお屋敷の玄関に、たくさんの手紙を積んだ男性配達員が小型のバイクに乗って現れた。

「おはようございます!」

「おはよう」

 配達員に挨拶を返したのは、この屋敷の護衛──「マテル・メアリル」だった。

「どうぞ! こちらが本日のお手紙になります!」

「ありがとう、お疲れ様!」

「騎士様も、お疲れ様でございます!」

「じゃあ、また明日」

「はい! また明日お伺いいたします!」

 マテルは会釈した配達員を笑顔で見送った。

「今日も多いな……」

 マテルは受け取った手紙をメイド──「イデリーナ・ミイルズ」に渡しに行く。

 玄関先から屋敷に入ったマテルは、玄関にいたイデリーナを見つけ、笑みを深くする。

「イデリーナ、今日の分の手紙を持ってきたよ?」

「あら? ありがとう」

 イデリーナはマテルを見て、冷静な表情から笑顔に変わった。彼女は彼が持っている手紙を見て、全て受け取ろうとする。

「俺が部屋まで運ぶよ!」

「いいの? ありがとう」

「どういたしまして。──イデリーナのためだからね?」

「──あら? 他の子でも運んであげるのに?」

「イデリーナ……」

「でも」

 イデリーナは笑うのをやめ、マテルを優しく見つめる。

「他の人のためでも、仕事じゃなくても助けてくれて……、人に優しいのがマテルのいいところよ?」

「……ありがとう」

 照れるマテルを見て、イデリーナは微笑ましそうに笑う。

「じゃあ、行きましょうか?」

「あっ、うん!」

 先に行くイデリーナをマテルは追いかけた。

 このお屋敷には、玄関近くに手紙を選別する部屋があり、いつもそこでイデリーナが作業を行っている。マテルは、その部屋にある机に荷物を置く。

「ありがとう、マテル」

「どういたしまして、イデリーナ」

 二人は、にこっと笑い合う。

 その後は、イデリーナに何かあった時のため、マテルが護衛として近くに立ち、様子を見守る。彼女は慣れた手つきで、手紙を仕分けていく。

 その様子をにこにこしながら見ていたマテルが、一通だけいつもと違う手紙を見つける。

「これは……何の手紙だろう?」

「マテル、見せてくれる? ──アリクス・アルーシャ……」

 シンプルなレターセットに全然知らない差出人の名前が書かれ、イデリーナはいぶかしむ。

「『レイモンド家の住所』……。『レイモンド家・執事』と書かれているわね」

 彼女は手紙を表に返す。

「お嬢様宛……ですね」

「──怪しい手紙だな……」

 二人が不審に思っていると、だんだん誰かの足音が近づいてくる。


 ──バァンッ!


「イデリーナ! マテル!」

 扉を勢いよく開け、ステファニーが現れた。

「「ステファニーお嬢様!」」

「あっ!」

 ステファニーはイデリーナの持っている手紙の差出人がアリクスと知り、その手紙を掴み取る。

「これはわたくしの大切な方からのお手紙です。これからは、この方のお手紙は必ずわたくしの元に届けるように!」

 驚くイデリーナだったが、彼女も負けていなかった。

「分かりました。ですが、毎回中身はチェックさせていただきます! いいですね!」

 そう言うと、ステファニーから手紙を奪う。

「別にやましいことは何もありませんわ!」

「それでも、チェックさせていただきます! どこの者とも分からない方の手紙をお嬢様に渡すわけには参りません! 何かあってからでは遅いのですよ?」

 ステファニーは手紙を取り返そうとするが、背の高いイデリーナと七歳のステファニーでは身長差があり過ぎた。

「イデリーナ! アリクスはわたくしのお話を聞いてくれた方です! レイモンド家の白バラ庭園で泣いていたわたくしを慰めてくれましたの!」

「お嬢様、それでも駄目なものは駄目です!」

 一瞬ムッとするステファニーだったが、突然、しゅんとしてしまう。

「……わかったわ、貴女のチェックは受けましょう。──ですが、チェックが終わった後は、必ずわたくしの元へ届けると約束してください」

「もし、変なことが書かれていたりした場合は?」

わたくしの元に届けなくても構いません。そんなことはどこにも書かれていないのですから」

 真剣な瞳で自分を見るステファニーに、イデリーナは溜息を吐く。

「仕方ありませんね。とりあえず、しばらくは様子を見させていただきます。──それでいいですね?」

「わかったわ! ありがとう! イデリーナ!」

 途端に笑顔になったステファニーを見たイデリーナは溜息を吐き、とりあえず様子を見ることにした。


 ステファニーは、その日。早速、アリクスに手紙を書いた。手紙の内容は、彼女の近況や相談事がほとんどだった。

 それからというもの、アリクスが書いた手紙はステファニーのわがままにより、毎回必ず彼女の元に届いた。彼からの手紙には、彼の近況と彼女の相談への返事が書かれていた。

 イデリーナは手紙の内容から、ステファニーの寂しさを理解し、前よりも少しだけ仲良く接するようになっていった。

 アリクスとステファニーが手紙のやりとりをして、一か月ほどすると、イデリーナは「アリクス」という少年が「悪い人ではない」と、何となく理解するようになっていた。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




 ステファニーお嬢様に初めて手紙を出してから、一か月後。

 ステファニーお嬢様は弟君のエディング様と、このお屋敷に通うようになった。お嬢様のお付きの方や護衛の方も、ご一緒に。

 レイモンド侯爵家よりも地位が上のシヴィッド公爵家。その公爵家のステファニーお嬢様が、「ぜひレナルド様にお会いしたい」と手紙をお書きになったとレナルド様に伺った。返事を断れない立場にいるレナルド様は、ステファニーお嬢様のお相手をなさることになってしまった。

 そして、今。

 私たちは花が咲く蔓バラ庭園に来ていた。

「お久しぶりです、レナルド様」

「お久しぶりです、ステファニー嬢」

「突然の訪問にも関わらず対応してくださり、ありがとうございます」

「こちらこそ、懇意にしていただきありがとうございます」

 レナルド様との挨拶を終えられ、ステファニー様がこちらに振り向かれる。

「久しぶりね、アリクス?」

「ステファニーお嬢様……」

「ねえ、アリクス? 私のことを『ステファニーお嬢様』ではなく、『ステファニー様』」と呼んでほしいわ!」

「いえ、ですが……」

 返事に困ってしまい、近くにいらっしゃるレナルド様を見つめる。

「ああ、ステファニー嬢のご意向だ、呼ばせていただいても構わないだろう」

「はい! それでは、『ステファニーお嬢様』のことをこれからは『ステファニー様』と呼ばせていただきます」

 そして、後ろに控えていたステファニー様の弟君が一歩前に出られる。

「レナルド様、突然の訪問にも関わらず対応してくださり、ありがとうございます。」

「こちらこそ、エディング様にまたお会いできて光栄です」

「こちらこそ、レナルド様にまたお会いできて光栄です」

 レナルド様と挨拶なさったエディング様は、急に私をご覧になる。

「アリクスさん……ですか? 初めまして、シヴィッド公爵家の長男『エディング・シヴィッド』と申します。姉のステファニーからお話は聞いております」

「エディング様、お声をかけていただき、ありがとうございます。お初にお目にかかります、私はレナルド様付きの執事で、『アリクス・アルーシャ』と申します。エディング様にお目にかかることができて光栄です。もし、何かご用がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

「ありがとうございます、アリクスさん」

「『アリクス』で構いません、エディング様」

「それでは、これから『アリクス』と呼ばせていただきますね?」

「はい! 今後は、是非ぜひそうしてくださいませ」

 私たちが話している間も、レナルド様は何かを考えこんでいらっしゃった。




 ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤




 後日談。

 少しして、レナルドとステファニーが付き合っているという噂が流れた。

 今日もステファニーは、弟のエディング、メイドのイデリーナ、護衛騎士のマテルと一緒にレイモンド家の屋敷へやって来た。

 ステファニーは相変わらず、レナルドに会いに行くのを口実に、毎週、彼の執事のアリクスに会いに来ている。

「貴方の執事のアリクスを私に譲る気はありませんの?」

「申し訳ございません、ステファニー嬢。彼は私の大切な使用人。簡単に人様に差し上げるわけにも参りません。ご希望に添えず、申し訳ございません」

 レナルドは人の良さそうな笑顔で、ステファニーの話をやんわり断った。


 ──アリクスが目当てだったのか……。


 レナルドにとって信頼できる人間は珍しく、ステファニーにアリクスを渡す気は全くなかった。


 ──権力を振りかざされようと、お金を積まれようと、アリクスを渡すわけにはいかない。


 レナルドは、まさかそのせいで、ステファニーと付き合っている噂まで立てられるとは思ってもいなかった。

「ところで、ステファニー嬢。私たちが付き合っているという噂があるのをご存じでしょうか?」

「あら? 何のことかしら?」

「ご存じありませんか?」

「私、用事を思い出しましたので、メイドのイデリーナと話して参りますわ」

 イデリーナとマテルのいる白バラ園の入り口に向かうステファニーだったが、突然、アリクスたちに振り向く。

「アリクスも、こちらにいらして?」

「はい! かしこまりました!」

 アリクスは足早にステファニーの元へ急ぐ。

 遠くで話す二人をじっと見ていたレナルドに、エディングはそっと声をかける。

「すみません、レナルド様。姉上に悪気はないのです。初めてできた友人のアリクスさんと、ずっと一緒にいて、仲良くしたいだけなのです。今まで寂しそうにしていた姉上にとって、彼は特別で──姉上をどうか怒らないであげてください」

「エディング、君が謝ることじゃない。顔を上げてくれないか?」

「わかってくださるんですね?」

「ああ、君を信じよう」

「ありがとうございます!」


「──初めての友人……か」


 ──私にとってもアリクスは、お付きの執事であり、かけがえのない友人だ。


 レナルドはアリクスたちの方を向き、遠くで楽しそうに話す二人を見つめる。


 ──……まあ、いいか。


 レナルドは溜息を一つ吐き、ステファニーに「もう屋敷へ来ないでほしい」と言うのを仕方なく諦めた。

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アリクス 鈴木美本 @koresutelisu

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