エピローグ


カイと別れた私は、オーナーが用意してくれた部屋に帰って来ていた。

ふう、と一息つき今日のためにどうしても、と強請った浴衣を脱ぐ。

部屋着に着替えて、いつものようにアレンジしたカフェオレを飲んでいると、

突然インターホンが部屋に鳴り響いた。

誰かと思いドアを開けると、最近私が1番お世話になった人__オーナーがいた。

「これでもう、彷徨うことはないか?ちび」

もう高校生のはずなのに、まだ『ちび』呼びですか。と、少し膨れる。

「おそらく、ないですよ。」

そういい、そっと目を伏せる。

オーナーは私の気持ちを察したのか、ぽんぽんと頭に手を置き、口を閉ざした。

「っ__!!」

オーナーが話さなくなったことで、自分の気持ちが、ストレートな感情が、口からこぼれ、溢れ出ていく。

「もう少し、一緒にいたかった__」

オーナーに言ってもどうしようもない。頭では理解しているけど、心が追いついていないんだ。

私が関わったカイは昔より大人っぽくなっていて、なんというか、その、カッコよかった。

やっと会えたんだから、もっと話していたい。もっと一緒にいたい。

そんな、どうしようもない感情がどんどん溢れてきて、涙がポロポロと止まらない。

そんな私を邪険に扱うことなく、そのままにしてくれるオーナーはやっぱり優しい。

そのとき、今まで喋らなかったオーナーが突然口を開いた。

「確かに、これ以上一緒にいることは出来ない。

 でも今まで通り、見守ることは出来るだろ?」

私はハッと顔を上げた。

後悔の念を晴らした私は、もうキツネさんたちの場所には戻れないのだとばかり思っていた。

そんな私を見てニヤッと笑い、オーナーは言った。

「花火んとき告白したんだろ?なら待ってるしかねぇよな?」

オーナーの言う通りだ。私は『待ってるから』と、カイに伝えている。

聞こえてたかは分からないけど。

「あっち、私も戻っていいんですね?」

確認の意味を込めて、オーナーの方をじっと見る。

「あぁ、もちろんだ。」

オーナーは再び笑った。それは今までにない程柔らかい笑みで少し驚く。

帰ったら、キツネさんたちに教えてあげよう。

「帰ったら」という考えが自分の中に浮かんでいるのに驚くも、素直にそう思えた。

オーナーはふっと息を吐いてから、私に問いかけた。

「これで帰れるか?」

オーナーは私を気遣うように、じっとこちらの様子を伺っている。

きっとここで『まだ』と答えれば、もう少しの間だけ、ここにいさせてくれるだろう。でも、それはカイも私も、望んでいることじゃない。

確かに、ずっとここにいたい。もっと話したい。

けど、それじゃあダメだ。

スッと顔をあげ、真っ直ぐオーナーの方を見つめる。

「はい、帰れます。」

目に溜まっていた涙を袖で拭い、ニコっと笑う。

オーナーはふっと笑い、「そっちの笑顔のがお前っぽいわ」と、微笑みながら呟いた。


私は決めた。

もう、ぐずぐずしない。

長年苦しんできたカイも、一歩踏み出そうとしているんだから。

これから、会えない時間は長く続く。

でもそれは、今以上にお互いが成長するための時間だから。

しばらくこっちに来て欲しくはないけど、いつ、来てもいいように。

私も一歩、前へ進みたい。

また2人で会えたとき、お互い笑って話せるように。


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そらかられいが 雨夜 ゆう @-you___amaya-

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