くすんだ銀の英雄譚~おひとよしおっさん冒険者のセカンドライフは、最大最難の大迷宮で~
113.今こそ掴み取れ、おひとよしおっさん冒険者の大勝利! VS最強魔獣《キュマイラ・Ⅳ》、究極無双最終大決戦!!!!③
113.今こそ掴み取れ、おひとよしおっさん冒険者の大勝利! VS最強魔獣《キュマイラ・Ⅳ》、究極無双最終大決戦!!!!③
――少し、時間を遡る。
「あの《塔》の中になら、《キュマイラ・Ⅳ》を閉じ込められるかもしれません」
第四層の冒険者達を見渡し、クロは告げた。
「あの《塔》は、《
それこそが。
四層の床に開いた大穴から伺える、第三層――その中心にそびえる、巨大な《塔》の正体である。
だが、
「軌道……?」
フィオレは怪訝に唸った。眉をひそめて唸ったのは彼女だけだったが、それはその場に居並ぶ一同の、心の代弁であっただろう。
クロは、ちらとフィオレを一瞥し、「ええと」と、難しい顔で言葉を続けた。
「……
彼女の物言いを聞く限り、それは明らかにそれだけのものではなかったが。
そこに口を挟む者はいなかった。時間が惜しいのに加え、そこはあくまで説明の『前座』にすぎないからだ。
「《
「……つまり、《キュマイラ・Ⅳ》はあの《塔》を壊すわけにはいかないと?」
「はいです。まさしくそのとおりのことです、ユーグ・フェット」
その要約で、彼らの間で事の理解が及んだのだと察して。
クロは、ぱっと表情を明るくした。
「《
それは、目もくらむような想像だったが。
その想像のデタラメさに眉をしかめながら、答えたのはフィオレだった。
「……《
「おおむねその理解で問題ないと思います。天地の双方から引っ張り合う力が、破損で弱くなった部分に集中し――《
ゆえに――《
「……《真人》種族のやることにしては、何とも片手落ちな塩梅だが。ここには修理を担うやつがいないのか?」
「いないことはありません。ですが、自動修復であれ人の手によるものであれ、正常に機能しない可能性は常にあるものでしょう?」
ウィンダムが呻いたのに、クロは答える。
「そして、《キュマイラ・Ⅳ》に現状の命令が課された時点で、《
「……確かにな」
ウィンダムは唸る。
現に――少なくとも、踏破済みの領域において――今の時点で生存が明らかな《真人》は、目の前の少女ただ一人。それすら、シドの解呪がなくば存在しえなかったものである。
「『ひと』の手なしに修復不可能の損壊が発生した段階で、《箱舟》内部の『ひと』は完全な『詰み』です。その結果、《箱舟》が完全な崩壊に至れば――今の世界で、
そこまで言い、クロは具体的な『提案』の内容へと話を進める。
「搬送エレベーターという役割、その効率化のため、《塔》は扉の向きを変える旋回稼働が可能です。この扉を《キュマイラ・Ⅳ》に向けて、
《キュマイラ・Ⅳ》を、
要約すれば、それだけの
「かくして、《キュマイラ・Ⅳ》をあの《塔》の中へと閉じ込めることができます。内部から《塔》の扉を開ける手段は、少なくとも、クーが知る限りにおいてはありません」
ひとたび封じ込めに成功すれば、扉を開けて《塔》の外へ出ることはできない。
《塔》の壁を破壊することもできない。《キュマイラ・Ⅳ》は
「《塔》だけではありません。その内部を上下する『
《キュマイラ・Ⅳ》を第四層へと運んできた、エレベーターの『籠』である。
重要度においては《塔》を構成する
「それは、《
「はず、ですか」
「はず、です。ジム・ドートレス。完全な意味での保証は、ありません」
クロがこの作戦を――
「だから、クーは見込みと言いました。
《キュマイラ・Ⅳ》は『
クロは言う。
「また、《キュマイラ・Ⅳ》の『脳』は《
《キュマイラ・Ⅳ》に無限の権限を与えず、その権能を制御下に置く意味で、この『脳』は他の演算領域から切り離されているはずですが――もし、仮に
これらが成立する場合、《塔》は《キュマイラ・Ⅳ》を封じ込める牢として、何の役にも立たないことになる。
「……確かに。こいつは頼りない話だ」
「はい。だからこそ、これはクーの『命乞い』なのです」
自嘲を含んだ笑みを広げ、クロは消え入るような息をつく。
「クーも……及ばずながら、あなたたちの力になります。『
だとしても、上手くいくかは分からない。危険も伴う。
仮に上手くいったとて、目論見通りに《キュマイラ・Ⅳ》を閉じ込められる保証もない。
さらに言えば――はるかに容易で、かつ、より確実であろう手段が。《
「――それでも、これを試させてくれますか。クーの、命乞いのために」
そして、問題はそこへと行きつく。
これまでのあらゆる経緯を顧みたうえで――より容易な別案があることをも、知ったうえで。
この
「やるわ。私は」
フィオレは答えた。
躊躇がないと言えば嘘になる。だが、シドがこの場にいたなら、きっと同じ答えを選ぶのに違いないから。
「ユーグ・フェット、ならびに《ヒョルの長靴》も異存はない」
「ちょ――」
「《ヒョルの長靴》は俺がリーダーだ。異論は許さん」
仲間達が声を上げかけたのを一蹴し。ユーグは続く言葉を、一睨みで黙らせた。
「無論、いざとなれば『第二案』があるのを前提とした賛同だがね――で、あんた方はどうする、《軌道猟兵団》のお歴々は」
「……我々も、異存はありません」
一度、周囲の仲間達を見渡したうえで。
ジム・ドートレスが、その代表として答えた。
そして、
「具体的な作戦の進行についてですが」
生徒の言葉を継ぐ形で、リアルド教師が切り出した。
「
ユーグは一瞬、眉をひそめたが――代案、ないしは意思を確認する形で、フィオレを見遣った。
フィオレは頷く。
「――お願いします」
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