99.《キュマイラ・Ⅳ》再始動!! 最強魔獣 VS おひとよしおっさん冒険者、ふたたび!!!【前編】
通常の場合は指向性を持つことなく、全方位へ拡散するはずの魔力衝撃は――重力操作を形成する『力場』にそのすべてが囚われ、有する威力をそのままに、直下へ向けて叩きつけられた。
《
その強度を以て二重の魔術構成を圧壊せしめるほどの『力場』と、さらには構成が圧壊した瞬間に放出された魔力衝撃という二重の威力を前に、第四層の床を形作る構造材が、耐久性能の限界を超えてしまったのだ。
床の構造材諸共落下してゆく
下の状況を確認すべく、穴の縁から下の様相を見下ろして、
「
――どうなった?
その疑問を、口にしかけて。
だがその直前。眼下に広がっていた光景に、シドは続く言葉の一切を失った。
そこに在ったのは、一面に広がる古代都市の様相――紛れもなくそれは、第三層の光景だった。
無論、この時シドを驚愕させたのは、そこに在ったのが第三層の光景だったことそのものではない。
シドの直下にあったのは、塔を中心に円状に広がる広場、その外縁である。
問題は、街並みの方――その家並みを形成する、一様の箱型に建てられた二階建ての建屋。その屋上が、その気になれば手が届きそうなほどの近くにあったのだ。
崩落した構造材の断面を間に挟んでなお、屋根まではほんの数メートルの距離にあった。第三層の地面までの距離でさえ、シドが覗き込む穴の縁から、十五メートルの高さもないだろう。
第三層は第一層や第二層と同じく、『屋外』の様相を備えた階層だった。
その頭上に、紛うかたなき『空』を有した階層だった。
おそらくは第一層に関してユーグが語ったのと同じく――『空』の頂までの高さを測ろうとすれば、数千メートルの高みに至るだろう、その空と、同じに。
だが――
(その『天井』……『階層』ごとの高さは、ほんのこれくらいだったってことなのか。真実、《塔》の内側の空間を歪ませることで、高度を確保していたというだけで……)
しかし、だとすれば、その状況はユーグが第一層で言っていた内容や、ここまで階層を上がってくる間に受けた印象とも、おおよそ整合する。
曰く、第一階層から第二階層まで上がるのに要した階段は、せいぜい屋敷の三階まで上る程度のもの。シドが実際に歩いた際に受けた印象としても、『天井の高い豪奢な屋敷の階段で勘定すれば』、かろうじてその範疇におさまる、といった程度のものだったが。
そして同時に、《
一階層を構成する領域の、『実際の高さ』がこの程度におさまっているというのならば――雲突き蒼穹の高みへと伸びる《
百ではきくまい。二百、三百、あるいは五百――否、否だ、そんな程度ではまったく足りない。その階層は千をも越えて、なお尽きることなど、ないのではないだろうか。
そして、今この時――探索済みとされている階層の最高峰は、一体いくつだったろう。正確な数こそとっさには思い出せないが、それでもシドの記憶のとおりなら――これまでの五百年に渡る探索と踏破を経てなお、未だ百層の到達までは至っていないはずだ。
だとすれば――真実、この《
《
(――っと)
シドははたと我に返ってかぶりを振り、思索と空想の世界に没入してしまっていた己の意識を引き戻した。
階下を見下ろし、
そこから、さらに広場へと視線を滑らせ――シドは背筋に氷柱を突っ込まれたようにぞっと青褪めた。
広場には、人がいた。
おそらくは第三層を探索中だったのだろう冒険者のパーティが、二つ――そしてあろうことかその一方が、天井の破片と建物の瓦礫とで埋まったキュマイラへ近づこうとしていたのだ。
「よせ!」
咄嗟に、シドは叫んでいた。
それにどれほど意味があったかとなれば、判じがたいところではあったが。
「逃げるんだ、早く――そいつに近づいちゃ駄目だ!!」
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