くすんだ銀の英雄譚~おひとよしおっさん冒険者のセカンドライフは、最大最難の大迷宮で~
49.仲間がいるのはいつだってどんな時だって頼もしいことですが。ただ、仲間になる場合、できれば事前の報・連・相はしてほしいかもしれません。
49.仲間がいるのはいつだってどんな時だって頼もしいことですが。ただ、仲間になる場合、できれば事前の報・連・相はしてほしいかもしれません。
ジム・ドートレス、ひいては彼が率いる冒険者パーティ《軌道猟兵団》と共に《
あるいはこの時、この場にいるのが自分一人であったなら――そして、
栄誉とやらはこの際どうでもいい――とまでは言わないが、せいぜい二の次だ。
彼らが何を目指し、何を以て『過去との邂逅』なるものをなそうとしているのか。果たしてそこに何を見ることがかなうのか。ただただ純粋にそれを知りたいという好奇心の高鳴りは、間違いなくシドの胸のうちにあった。
――だが、
隣に座るフィオレの横顔を一瞥し、シドはひっそりと息をついた。
「魅力的な話ではありますけど……俺は遠慮させてもらいます」
かぶりを振って、謝絶する。
ジムは心から意外そうに、目を丸くした。
「理由を伺ってもよろしいですか? まさか、あの
「そのまさかです、ジム・ドートレス。あなた方が何をなそうとしているのかは、俺も興味深く感じ入ります。けれど、あなたのやり方をよしとはできない」
シドの理由に、ジムは呆れたようだった。
「なんと。そのような些末な理由で……何と馬鹿げたことを」
「それに、
「……では、あなたはいかがですか、フィオレ。
「私も遠慮させていただきます。私はシドのパーティですから」
さらりと言い放ったその言葉に。
ジムや《軌道猟兵団》の冒険者たちは言うまでもなく、シドまでもが「えっ?」と目を剥いた。
目に見えて反応がなかったのは、フードと仮面で表情を隠した《
――パーティを結成した覚え、ないんですけど?
いや、つまり彼女は自分とパーティを組んでくれるつもりがあるという意思表示かもしれなくて、それならそれは大変ありがたいことではあるのですけれど。でも、まだ俺達、正式にパーティ組んでないですよね? その覚えがないんですけど?
「私は彼からひとかたならぬ恩義を受け、これを返すべくこの地へと参じました。ゆえに、私は彼を
ジムは眉をひそめた。
そしてこの時、彼は――シドがこれまで見てきた中では、初めてかもしれない――口の端をゆがめ、内心の不快を露わにしていたようだった。
「……残念です。あなたほどの高貴な女性には、是非我々の偉業の瞬間に立ち会っていただきたかった」
ジムは席を立った。
彼を含め、《軌道猟兵団》の冒険者たちの前にあった料理の皿はいつの間にか空になっており、唯一料理どころか水すら口にしていなかった《
「ですが、それもまた些事でしょう。我々が正しく、この大いなる探索を果たせし時には――あなた方も必ずこれを知る。そして我々が果たす前人未踏の偉業に、感嘆の吐息をこぼすこととなるのですから」
そこまで言い終え、「行くぞ」と号令をかけるジムに、他の男たちが続く。
最後までその場に残ったリアルド教師が、シド達へ向けて深く首を垂れた。
「私の生徒が失礼を――ですが、
「先生、何をなさっているのです? 明日も早いのですから、早く行きましょう」
「せっかちはおやめなさい、ジム・ドートレス。私のような老人を、そうもせっつくものではありませんよ」
笑みを含んでそう返し、リアルド教師は踵を返した。
一行は店の亭主であるエリクセルを相手に支払いを済ませ、《Leaf Stone》を去ってゆく。
「はぁ――……」
その背が、完全に見えなくなると。
シドはようやく、今にも詰まりそうになっていた息をついた。
力なく脱力しきった肩を落としてため息をつくシドを見遣って、フィオレは白皙の美貌へ、やわらかな苦笑の色を広げた。
「いいの? 断っちゃって。あなたはああいう探索、好きなひとだと思ってたけれど」
「もちろん好きだよ。行けるものなら、願ってもないお誘いだった」
けれど。
そのうえで、それでも容れられなかった理由がある。
「でも、フィオレの
「……私、そんなにわかりやすい顔してた?」
「とりつく島がないくらい、澄ました感じだなぁとは思ったよ」
シドは言い、隣のフィオレを見上げる。
「フィオレが今までそういう態度をするときは、たいてい何か嫌なものを感じた時だった。だとしたら、フィオレには彼らと同行する意思はないだろうし――仮に俺に合わせてくれるとしても、無理につきあわせることになる。
何か故あっての忌避だとすれば、あの探索への同行はあまり気が進まないな」
それでなくとも、《軌道猟兵団》との間には
「けど、どうしてフィオレがそうしたのか――理由の部分は正直よくわからないんだよね。なんだって急に、あそこまで彼らを警戒しはじめたんだい?」
「……その話は、部屋に戻ってからでいい?」
言いながら、フィオレは周囲へ視線を走らせる。
人の耳があるところではしたくない話だということだ。
「そうか。じゃあ――」
「先に、お夕飯の残りを食べちゃわなきゃね」
逸って腰を上げかけたシドへ、フィオレがテーブルの皿を指さして示す。
女将のナザリが意気揚々と調理した
「ナザリさん、お残しにはうるさいわよ?」
「…………がんばる」
苦笑気味にフィオレが言ったフィオレの意図するところが、おおむねそれだけで了解できてしまい。
半ば渋々の体ではあったが、シドはあらためて、目の前の料理へと向き直った。
中年の胃に、脂っこいものの連打はきつい。
――などという泣き言は、まず聞いてもらえないのだろうな、と。
この時点で、おおむね察しがついていたシドだった。
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