今日も俺はリビングでテレビを見ていた。


『――遠坂市連続行方不明事件の新たな被害者が出ました。被害者は市内の高校に通う「新藤夏海」さん、17才で、学校を出た一昨日の夕方から家に帰ってこないとのことです。警察では「新藤夏海」さんの情報提供を呼びかけています』


 顔写真が映る。

 新藤夏海という少女はなかなかの美少女だった。

 特にバストアップショットでも分かる服を押し上げる二つの山に俺の視線は釘付けに――いかんいかん、さすがに不謹慎だな。

 俺がそんな葛藤をしていると、


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。

 俺の膝上でネコのように丸まっていた妹の愛理がピクリと反応する。


「宅配便かなー?」

「何か頼んだのか?」

「おっきな業務用冷凍庫だよ」

「いや、なんで頼んだ、そんなの。というか、どこに置くんだ」

「二階の奥の部屋」

「あそこなら、まあ、別にいいか。どうせ俺は入れないし」


 その部屋は愛理しか入れない。

 我が家の常識だ。

 たまに愛理の友人が来てそこに入っていくのを見かける。

 

 またチャイム鳴った。


「はいはい、今、行きますよー」


 愛理は俺の膝からぴょんと飛び降りて玄関の方へ向かった。

 俺はテレビに意識を戻したが、しばらくすると、何やら騒ぎ立てる声が聞こえてくる。

 何かトラブルか?

 俺は立ち上がって廊下に出る。

 玄関先には愛理がいた。

 そして、もう一人の少女がいて、声の主は彼女だった。

 ショートのウルフカットで、体つきはスレンダー。だが、顔立ちは良い部類だろう。

 少女は愛理を口汚く罵っていた。


「ぜってえ、あんたの仕業だろ!ストーカー女!あんたに話を聞きに行くって言った次の日から夏海はおかしくなった!エンコーでオヤジに体を売る子じゃなかったのに!ストーカー女、あんたが何かしたんだろ!言え!言え!」


 話の内容は分からないが、掴みかかられている妹を守るため、二人の間に割って入ろうと近づく。

 俺の足音に気づいたのだろう、少女の顔がこちらへ向く。

 すると、なぜか少女が動きを止めた。

 まるで金縛りが起きたように。

 愕然とした様子で目と口を開く。

 一体、何だ。そんな反応される覚えはないが。


「……し、島田くん……生きて……家族全員が行方不明って……」

「島田?人違いじゃないか?俺の名前は高宮香月だ」

「え……。何言ってんだよっ!あんたの名前は島田香月だろっ!」

「はぁ?」

「あたしは木崎弥生だ!中学から夏海と友人で、島田くんとも何度も話したじゃんか!」

「夏海……?」

「新藤夏海のことだよ!島田くんの隣に住んでた幼馴染の!――おい!ストーカー女!これはどういうことだ!なんでお前が島田くんと一緒にいる!島田くんに何しやがったっ!」


 新藤夏海というのは聞き覚えがある。ついさっきテレビで見た新たな行方不明の少女のことだよな?

 そんな彼女と俺が幼馴染?

 何を馬鹿な、と切り捨てたいが、なんだこの違和感は。

 それに、この木崎弥生という女はずっと俺の妹の愛理をストーカー女と呼んでいる。

 俺は島田香月……高宮愛理はストーカー女……。


『クヒッ、クヒヒヒヒヒヒヒ』

『やめろ!やめてくれ!父さんと母さんにこれ以上酷いことをしないでくれ!』

『先輩がー、早く私のお兄ちゃんになればいいんですよー』

『何言ってんだ、お前はっ!』

『――常識改変。今度こそ、私のお兄ちゃんになるかなー』


「うっ」


 何か、おぞましい光景がフラッシュバックした。

 がんがんと頭が痛む。

 それでも、その先を思い出さないといけない気がする――。

 バチッ!

 次の瞬間、全身が痺れ立っていることが出来ず床に転がった。

 意識が暗転する……。


 ///


 OtherSide:


 私、高宮愛理がお兄ちゃんにスタンガンを当てると、お兄ちゃんは気絶して床に倒れた。

 危なかった。

 お兄ちゃんの常識改変が解けるところだった。

 ここまで時間をかけて育ててきたんだ。

 それを台無しにしようとするなんて許せない。


「島田くんっ!島田くんっ!しっかりしてっ!」


 しかも、この木崎弥生という女、私のお兄ちゃんにどさくさに紛れてすがりついている。

 それ、ギルティーだよ?


「勝手に、お兄ちゃんに触れるなっ!」

「ぐうっ」


 無防備にがら空きだった木崎の腹に蹴りを入れる。

 木崎が苦しそうにえづいている間に、私は「常識改変アプリ」を起動する。木崎の写真はすでに入手してあるから改めて撮る必要はない。

 新藤夏海と違ってお兄ちゃんに気があるわけではなかったみたいだから見逃してあげていたのに。

 自分から私の下僕になりに来るとは馬鹿なやつ。

 私は写真フォルダから木崎のを選択した。


「内容は、私、高宮愛理の命令に絶対服従になる、と。――常識改変。うわあ、やっぱ不気味だなー」


 命令待ちの木崎は感情がすっぽり抜け落ちたかのような無表情だ。

 私の「命令に絶対服従」の常識改変はお手軽だけど、どういうわけか人間味がなくなってしまう。

 だから私はお兄ちゃんに対して絶対服従を使わず、少しずつ常識を改変してきた。

 おかげでお兄ちゃんは昔の性格を残したまま、妹の私を可愛がってくれる。一緒にご飯を食べてくれるし、一緒にお風呂に入ってくれるし、一緒にベッドで寝てくれる。たまにエッチもする。

 でも、まだ道半ばだ。

 今のままでもお兄ちゃんは十分素敵だよ?

 けど、私の思い描く理想のお兄ちゃんになれば、もっと素敵になると思う。


 それはさておき。床の上のお兄ちゃんを運ばなくちゃ。

 木崎には指一本たりとも触れさせたくないから、ちょっと大変だけど、一人で。


「んしょっ」


 引きずるようにして何とかリビングのソファまで運んだ。

 お兄ちゃんが気絶から回復するまでの平均時間にはまだ余裕がある。

 お兄ちゃんが目覚める前に木崎の処置を済ませておこう。


「待っててね、お兄ちゃん。ちゅっ」


 お兄ちゃんに口づけして廊下に戻る。

 木崎が命令待機状態で無表情に待っていた。

 付いてくるように命じる。

 階段を上がり、二階の一番奥の部屋へ行く。


 二階の一番奥の部屋は元は私の両親の寝室で、リビングを除けば、この家で一番広い部屋だ。

 今はベッドなどの家具は処分して、業務用冷凍庫が一角を占めている。

 近日中に新しく追加される予定だけど。

 新しいのが来たらパパとママを移してあげようかな。

 新しい方が嬉しいもんね。

 パパとママは嫌いではなかったけど。常識改変アプリの効果を調べるための身近なサンプルにちょうど良かったから繰り返し実験していたら、人格が崩壊して元に戻らなかった。

 だから殺した。

 お兄ちゃんには海外に出張中っていう常識にしてある。


 私は木崎が部屋に入ったところで命じる。


「服を脱いで。ブラもショーツも全部ね」


 お兄ちゃん以外の裸なんて興味がないので、私はその間にオモチャを取ってくる。男の擬似男根。つまり、早い話がバイブ。

 裸になった木崎にバイブを手渡す。


「それ、股から膣に突っ込んで。あー、処女か。ってことはー」

「痛っ。……え?え?なに、これ?なんで、こんなもんが股に……っ!確か、私は……ストーカー女っ!」


 一瞬、パニックになったが、すぐに常識改変中の出来事を思い出したようで、私を見つけると睨みつけてくる。


「処女喪失、おめでとー。機械の肉棒でだけど。クヒッ、ちなみに私はお兄ちゃんとの甘々エッチだったよー」

「あんたの、それ。それで、夏海や、島田くんを――」


 掴みかかって来そうだったので、もう一度、木崎を常識改変する。

 私の命令に絶対服従にする。

 常識改変アプリも完全ではない。常識改変が解ける場合がある。それは強い負の感情を持った時だ。痛み、悲しみ、苦しみ、怒り。それがきっかけで正気に戻ってしまう。

 ならば、負の感情を持たなくなるまで繰り返せばいい。

 お兄ちゃんが苦いセロリを克服したように。

 木崎は膣にバイブが入っている状態が当たり前だと思えるくらい覚え込ませればいい。


「あ、そうだ。どうせなら会わせてあげようかな。私ってば、優しいね」


 私は部屋の隅の業務用冷凍庫を開ける。

 たくさんのゴミ袋が詰まっている。

 その中で一昨日入れたばかりのそれを引きずり出す。

 木崎の前まで持ってきて袋を開ける。

 裸の女が入っている。


「感動のご対面ー」

「――ぁっ!夏海っ!」

「クヒッ、こいつはね、私が命じてエンコーさせてたんだ。せっかくの稼ぎ頭だったけど、子供ができちゃったの。だから正気に戻して妊娠した事実を突きつけてから、殺しちゃった。クヒッ、絶望した顔、最高だったよ、クヒッ」

「あんた、ぜったい、殺す……っ!」

「クヒヒヒヒヒ、――常識改変」


 新藤夏海は大罪人だ。

 幼馴染だからと何かとお兄ちゃんに色目を使って誘惑した。

 だから、徹底的に弄ぶことに決めたんだ。

 他にもお兄ちゃんに近づいたメスは同じ末路に合わせている。

 木崎も体を開発してエンコーさせよう。


「ついでに、新藤夏海の死体に興奮するって内容も追加してー」


 それから数時間。

 木崎は正気と無表情を言ったり来たりしながら、涙で顔をぐちゃぐちゃにして、もうやめてと懇願した。

 なんでやめなきゃいけないの?バカなの?

 最後には新藤夏海の体をペロペロ舐め回しながら、乳房をこすりつけ、バイブで股をいじっていた。

 絶対服従の無表情の顔で。


「そろそろ、お兄ちゃんが起きる時間かな♪」


 私は部屋を出て足取り軽く一階へ降りる。

 今日はどんなお兄ちゃんの常識を改変しようか――明日はどんな――明後日は――。

 毎日、私の手で素敵になっていくお兄ちゃんがいてくれさえすれば、それだけで私は幸せだった。

 それが私のたった一つの普遍の常識である。(Fin)



(あとがき)

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 なんでこうなった?自分は可愛いヤンデレ妹を書きたかっただけなのに。サイコになってしまった。どうして?

 書き直そうとも思ったけど、せっかくなので投稿しました。

 また機会があれば、拙著の作品をよろしくお願いします。

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常識改変アプリを妹がダウンロードしたが、エロいことに使えない(俺視点) あれい @AreiK

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