第7話 希望
賑やかな声、カチャカチャとした食器の音。
長居して談笑する客もいれば、食事を済ませるとすぐ帰る客もいる。入れ替わり立ち替わり、様々な人々がこの店に集まってくる。
その様子は以前と同じだろうに、瞳に映る景色は全てが新鮮だった。けれども、耳から入ってくるものも眼から入ってくるものも、明るく温かいことには変わりない。
お祝いだと用意してもらった酒をちびちび飲んだ後、背もたれに身を預けて先程の余韻に浸った。
見ることが出来ると伝えたとき、皆自分のことのように喜んでくれた。特に、リースや涙もろいアルは涙まで流してくれた。まるで大きな祝い事のように宴会が始まり、常連ではない客も巻き込んで、しばらく店中大騒ぎだった。
そして、皆に報告したのはそれだけではない。
「でも、急に気が変わるなんて何かあったのかい?」
店長に聞かれ、少し気恥ずかしさもありつつ素直な気持ちを言葉にする。
「これまで誘われていたのも嬉しくなかったわけじゃないんだ。ただ……見えないことを言い訳にして意地になっていたのだと思う。それを、ステラが気づかせてくれた。皆には感謝しているし、これから恩返ししていきたいと思っている。特にリースは、いつもまっすぐに向かってきてくれていたな……ありがとう。本当は嬉しく思っていた」
隣に座っていたリースは感極まったように瞳を潤ませると、私の腕を強く抱きしめる。
「これからは毎日でも魔女さんに会えるんだね……もうこれ以上の幸せないかも」
「リースちゃん、いっつも寂しそうにしてたもんねー。もちろん、私もまた早く来て欲しいなーって思ってたけどね!」
アルの声に他の常連客も再び集まってきて、途端に店中の賑やかさが一カ所に集まった。皆が笑顔を浮かべていて、私も自然と頬が緩む。
切実に求めていた星と同じぐらい、ずっと見たかった景色だ。
去り際、皆には聞かれないよう店長だけに提案する。
「こっちに引っ越した後、できれば今まで世話になった分、この店で何か手伝えればと思うのだが……」
「もちろんだよ!俺も嬉しいしきっとアルも、リースや他の常連さんだって絶対喜ぶさ」
「ありがとう、店長」
気前よく受け入れてくれた店長にお礼を言うと、再び辺境の地へ向かった。
荷造りをする間、もう少しあの場所から星を見ておこう。いつ、どこにいても見られることに変わりはないが、ステラと過ごしたあの場所から見る星は特別なものとなったから。
村へ引っ越してからも、きっと特別な景色は増えていく。時々は戻るつもりでもいる。けれど、もう少し焼き付けておきたい。
暗くなり、少しづつ顔を出し始めた星の光を見上げ、私は思わず微笑んだ。
今はあの光以外にも温かい居場所ができた、手を伸ばせば届くところに。でも、私がここで今こうしていられるのも、希望の光があったからだ。
「ありがとう」
届かない光に手を伸ばしながら呟けば、星たちがまるで返事をするように煌めいた。
辺境の魔女はその瞳に星を映す 星乃 @0817hosihosi
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