挑戦 SIDE先崎秀平

 ミニスーパー「カワカ」でプリンを買って。

 保健室で休んでるとかいう花純に渡してきた。努めて明るく振る舞ったことが心に余計な負担をかけて、俺はもうフラフラだった。だから保健室から出ると静かに廊下を歩いて、それから適当な柱にもたれかかるとふうとため息をついた。俺はスマホを立ち上げた。

 メッセージを送る。

 相手は長野美遊ちゃんだ。さすが俺。学年の女子は一通り連絡先を知っている。

〈さっきは悪かった〉

 俺はひとまず謝罪を入れる。

〈最後に一つだけ聞かせてくれ〉

 既読がついた。読んでは、いる。

〈真崎に話しかけて新津のことについて駆け引きした、ってことは、新津に狙い目があったってことだな?〉

 美遊ちゃんはプライドが高そうだ。告白して振られました、じゃ当人の気持ちが許さないだろう。だからこそ、真崎に対し直接的に、新津のことについてアプローチしたということは、何か狙い目があったということだ。俺は続けた。

〈新津と仲良かったのか?〉

 既読。少ししてから返事があった。

〈これ見て〉

 画像が送られてくる。

 そこに、あったのは……。

 多分ルーズリーフだ。ぺらりと一枚、無造作に画面の中にある。文字があった。薄い字。俺は目を凝らしてそれを読んだ。


 ――いつからだろう 僕たちが夢を語らなくなったのは――


 ――聞こえてくる あの日の僕たちの笑い声――


 ――ずっと隣に なんてもう言わない――


〈新津くんの歌詞ノート〉

 美遊ちゃんは続けてきた。

〈これ多分新作〉

 ……ああ、そうか。

〈新津くん、このところスランプだったみたいで、曲は浮かばなかったみたいだけど……〉

 美遊ちゃんの話は続く。

〈歌詞だけは浮かんでくるみたいね。つらつらこんなの書いてた〉

〈こういうの見せ合う程度には仲良いと〉

〈ううん、これ勝手に撮った〉

〈盗撮してたのか〉

〈だからなに。スカートの中撮るおっさんより無害〉

 それはどうかな……。

〈私があの日真崎さんに話を持ちかけたのはね、新津くんいけると思ったから。こんな歌詞書いてるくらいだもん、新津くん、人恋しいんだと思う〉

 やっぱりな。

〈花粉症の薬のせいで、記憶が曖昧でヨォ〉

 俺は質問をする。

〈前夜祭の時、最後まで残ってたのって誰がいる?〉

〈言っとくけどあんたが残ってたこと私知らなかったんだからね?〉

 つまり全員は知らない。けど知ってる範囲はある。

〈私たち『五十歩ひゃっほー!』はみんな校門のところでぐだぐだしてた。あと新津くんが校庭の傍でぼんやりしてて、それから神余くんが後輩引き連れてこっそり帰ってるところだった。あと当たり前だけど真崎さんも残ってた。私は校門から二、三歩離れて校庭の近くにいた〉

 なるほどな。

〈で、下校時刻ギリギリまで粘って、私ら『五十歩ひゃっほー!』は一回藤山本町と反対側にあるセブンイレブン行ってアイス買った。店前でおしゃべりしてたら、ぶーちゃんが腹減った、ビッグマック食いてぇって言うから『乗り換え塀』の向かいのマックに行った〉

〈美遊ちゃん、最後までマックに残ってたって?〉

 返信に少し時間があった。

〈そうだよ。新津くんに好きって言うか迷ってた。そういうのはLINEでするより口で言った方がいいっていうけどね。新津くん、いつの間にかいなくなってたし〉

〈仁部がマックにいたって言ってたぜ〉

〈らしいねー。気づかなかった。言ってくれりゃよかったのに〉

〈ところでさ〉

 俺は立て続けに送る。

〈腕、大丈夫か?〉



 はぁ。

 ため息が出ちまうな。

 俺はこの美遊ちゃんとのやり取りの後、花純と電話してお互いの意思を固めあった。花純のやつがマックにいるって分かった時は運命感じちまったぜ。何でもあいつ、警察に行ったらしいな。

 花純がしっかり追い詰めている以上、俺も手を抜くわけにはいかねぇ。

 以下、手がかりだ。


 ・真崎に接触できた人間は?

 上の美遊ちゃんの証言を読んでほしい。


 ・真崎殺しの動機を持つ人間は? 

 恋愛関係が原因だろうな。あと、もう一つ理由はありそうだが……(俺はそっちの方で気づいた)。


 ・人の動き方は?

 証言の通り人を動かすと妙なムーブメントしてる奴がいるよな。でもそれは嘘だってことも分かった。ヒント? 男子トイレだな。

 あともう一つ。

 神余は俺と真崎をバルコニーに二人きりにするつもりだった。つまり俺同様、真崎は神余に言われてバルコニーに行ったんだよな。本来はそこに、俺も行く予定だったんだが……。


 ・アリバイ

 関係者は何かしらアリバイがあるよな。

 でも一人だけ、崩せるとしたら……? 


 ・最後に

 歌詞はヒントかもな。


 さて、俺は、疲れちまった。

 でもあと一息。

 花純と一緒に、駆け抜けるか。

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