俺の長所 SIDE先崎秀平②
ぺっぺちゃんの強気な告白を受けて。
なかなか恋愛関係の矢印が入り乱れてるなぁと俺は思った。もしかしてこういうところに動機があったりするのだろうか。
葬式が終わり、三々五々帰ることに。大人たちがバラバラに出ていくのを尻目に高校生軍団はまとまって駅へと向かった。俺はおふくろに連行され車へ。運転席に乗り込んだおかんがつぶやく。
「……あんたは死なないでね」
「もちろんさ」
いつもみたいに軽く答えたが、今になってもう少し真面目な顔をしておけばよかったと思った。ただ、俺もおかんも、死んでしまったらどうなるか、ということについて思いを巡らせたみたいだ。
家に着き、部屋に帰ると俺は銀の字に電話をかけた。あいつは二コール目で出た。
〈今忙しかったんだが〉
不機嫌そうな声を出す銀の字に俺は笑う。
「愛しの
〈お前。白百合をいやらしい目で見たら目玉潰すからな〉
「実際美人だろ」
〈まぁな〉
そんな、軽いやり取りをした後に一言。
「なぁ銀の字。時宗院高校のゴシップについて聞きたい。お前そういうの得意だよな」
〈任せろ〉
銀の字がサッパリ言い切る。
〈何について聞きたい?〉
俺もハッキリ、口にする。
「〈ギャングエイジ〉周りの色恋沙汰について知りたい」
俺がそうつぶやくと、銀の字は電話口の向こうでため息を一つついた。
〈まぁまぁ入り組んでいそうというのが俺の感想だ〉
「入り組んでいそうっつーと?」
〈どうにもボヤけた話しか聞かない〉
「どういう意味だ?」
〈Aくんは『ギャングエイジ』の真崎さんが好きらしい。しかし根拠はなく、実際にAくんが『ギャングエイジ』のファンという事実はないどころか、二人の内のどちらかと同じクラスだったことさえない、だとか。『ギャングエイジ』の二人がいちゃついているところを見たというデマが回ったと思いきや、どこで
なるほど。妙な噂が流れこそすれ探っても探っても〈ギャングエイジ〉の二人の関係については辿り着けない感じか。
〈ただまぁ、何もないかと言われると違う〉
俺は銀の字の言葉に飛びつく。
「何を知ってる?」
すると銀の字は告げた。
〈『ギャングエイジ』の新津を題材にしたBL小説が三年女子の一部の間で出回っているんだが……〉
「オイオイオイオイマジかよ」
腐女子の連中も派手にやってんなぁ。しかしまぁ、その手の話には俺も心当たりがある。
なんて、一人納得していると話は進んだ。銀の字がつぶやく。
〈新津の相手役に必ず選ばれる男子が二人いるらしい〉
「どいつとどいつだ?」
俺だったりしたら笑えねぇな、なんて思いながら訊くと銀の字は答えた。
〈仁部と杉本だ〉
*
仁部はまぁ、〈五十歩ひゃっほー!〉のギターとして有名。確かにイケメン。葬式で話した感じ、新津に対して何やら考えるところがあるらしく新津に「事件当夜何を食べたか?」を訊いていた。真意は不明。
そしてもう一人のイケメン、杉本裕司は〈ザ・グレート・ノベルス〉通称〈グレノベ〉のピアノ担当。ベースとドラムの間でガンガンピアノ叩いてるあいつだ。俺と同じクラス。
そんな二人が腐女子の手により新津とくっつけられている。どこまでのものか知らないが俺は文芸部の部室で
ただ、この二人の中で仁部は分かるが杉本が分からなかった。こいつは一旦置いておいて、簡単な路線の方から考えてみるか。新津×仁部について。
仁部が真崎のことが好きである話はぺっぺちゃんから聞いた。この話題はもしかしたら女子の中では常識的な話なのかもしれない。そしてそんな仁部は、真崎のすぐ隣で音楽をやっている新津のことを、あまり快くは思わないだろう。仁部がどういう恋愛タイプかは知らないが、嫉妬深ければいい気分では見ていられないことは想像に難くない。つまり仁部は新津に対して敵対心を向ける可能性があり、ひいては仁部→新津の矢印ができ、そんな仁部が新津の魔の手に落ちて……だとか、真崎に向いていたはずの仁部の心がいつの間にか新津に……なんてニュアンスでのBLは書けるだろう。新津が受ける側なのか攻める側なのかは分からないが……まぁ仁部は性格的に攻めっぽい気はする。今度緑ちゃんにこの二人ならどんなネタにするか訊いてみるか。
まぁ、仁部の線はこのことからも分かるように考えやすいとして。
何で杉本が? 杉本も確かにイケメンっちゃイケメンだが浮いた話なんて聞かないし、新津と密な接点があるわけでもない。恋には疎いどころか、何なら女嫌いの噂まで……だからか? 女が嫌いなら男だろうっていう短絡的な?
これは調べる価値がありそうだ、と俺は思った。真崎に着地する問題かは分からないが、「新津と仲良くできる真崎が羨ましくて妬ましくて、その結果として殺害した」なんて絵も描けなくはない。新津へのベクトルは動機になり得る。
そういうわけで翌日。おふくろから許された三日間の内の最初の日。俺は集団登校の最中に新津に連絡をつけた。言われた通りおふくろの運転する車に乗ってVIP登校。スマホでちょいちょい文字を打っていると、運転席のおふくろが声を飛ばしてきた。
「どうなの?」
「どうなのって?」
新津にメッセージを送信。〈お前女子からネタにされてたらどう思う?〉導入としてはバッチリだろう。さて、おかんに返事。
「何が?」
「何がじゃないでしょ」
おかんはハンドルにとんとん指を打ちつけながら返してくる。
「あんたやることがあって三日間も時間もらってるんでしょうが。進捗はどうなのかって訊いてんの!」
「そりゃもうバッチリさ母さん」
俺は後部座席から身を乗り出した。
「母さん今朝も最高に綺麗だね」
「うるさい! 誤魔化そうったってそうはいきません。何する気かは訊かないけど、せめてどんな進み具合かパーセンテージで教えなさい」
俺は答えた。
「八十パーってところかな。後は詰めるだけさ」
「おいお前これ」
学校に着いて。教室でぼけっとしてると。
登校してきたばかりの新津が荷物も置かずに俺のいる教室まで来た。差し出したスマホには俺が送ったメッセージがあった。〈お前女子からネタにされてたらどう思う?〉
「どういう意味だよ」
そう、訊いてくる。俺は笑った。
「俺ならちょっと嬉しいかも?」
「何がだ」
ちょいちょい、と俺は教室の隅にいる女の子を示した。山田緑ちゃんである。
「話聞きにいくぞ」
「はぁ?」
何も状況を飲み込めていない新津を連れて、俺は緑ちゃんのところへ向かう。
「よぉ緑ちゃん!」
俺が声をかけるといつも本を読んでいる山田緑ちゃんが(多分ハリーポッターのBL本でも読んでいたんだと思う)大きく目を開けて電気ショックでも喰らったみたいに飛び上がった。
「せせせせ先崎くん」
「緑ちゃん今日も本読んでんの? 知的ー!」
「い、いや、知的っていうかまぁ、ある意味痴的っていうか」
その漢字変換できるの俺くらいなもんだからな。大体朝から教室で読む本じゃありません。
「BLに詳しい緑ちゃんに訊きてーんだけどよぉ」
「びびびびびBLって何ですかぁー?」
「えっ、知らないの緑ちゃん。緑ちゃんの好きなBLはぁ、スネイプみたいなくたびれたおじさんがぁ、ハリーみたいな若い男の子にぃ……」
「わわわわわわ! 分かった……分かった先崎くん……チクショオ殺してくれェ……」
「よしよし緑ちゃん。さて、ここに新津くんがいます!」
「……お前そんなキャラだったか?」
呆れ顔の新津。うるせー。女の子に見せる顔はたくさんあった方がいいんだよ。
「緑ちゃんよぉ、三次元の男でBLするのって……」
「ああ、ナマモノですね」
おお、そうだそれそれ。
「緑ちゃん俺は知ってんだよ。この学校の男子でそのナマモノ系のネタを作って、それを一部の女子が楽しんでるっつー事実をな」
「だだだだだだ誰でしょうかねーそんないかがわしいことをする輩はー」
「あれ? 緑ちゃんハリーポッター読んでるの? 奇遇だなぁ。新津も好きだよ」
「おまっ、バッ、これはちげーよハリーはハリーでもハリィなハリーというか……」
「まぁ、そんなことはいいからさ、緑ちゃん」
俺は親指をくいっと立てると背後にいた新津を示す。
「ナマモノネタでこいつ使われた例知らねー? 緑ちゃんなら界隈の情報詳しいかなって」
と、新津が首を傾げる。
「お前さっきから何言ってるんだ? 俺をネタにするとかどうとか……」
「ブッフォォォ先崎氏それはさすがに攻めすぎなのでは……?」
「いいから教えてよ緑ちゃん」
「チクショオ殺してくれェ」
「ほら、いいだろ?」
俺が緑ちゃんに近づくと緑ちゃんは少し目を伏せてから、言いにくそうにつぶやいた。
「姫……」
「……姫?」
首を傾げた俺に緑ちゃんは続ける。
「
「鈴木令理って言やぁ……」
俺は思い出す。
鈴木令理。〈時宗院ギター女子部〉のメンバーだ……。
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