第二十七回 異なるジャンルの作品を複数同時に書く! その2

 はじめての方はよろしくお願いします。

 お馴染みの方はようこそ懲りずにお越しいただきました、虚仮橋陣屋(こけばしじんや)でございます。


 さて第二十七回ですが、今回も前回に引き続き「異なるジャンルの作品を複数同時に書く」というテーマについて綴っていきます。ふふふ、済まぬな……(吐血)。


 では、張り切ってお送りしまーす!




■こけばしの誤算


 前回、こけばしのファースト・チャレンジが失敗に終わったこと、そしてその最大の要因が、拙作『吾輩は異世界転生した猫である』の執筆コストの異常なまでの高さにあったことをお伝えしました。ここであらためて、その執筆コストの高さの理由を詳しく綴りたいと思います。



 結論から言いますと、こけばしが『吾輩は異世界転生した猫である』を書くにあたって、軽率にも夏目なつめ漱石そうせきセンセイの文体そのままに、新規のパートを書こうとした点にあります。



 つまり、第十五回でも書きました「口語体」と「文語体」の問題です。繰り返しになりますが、平安時代に確立された「文語体」は、昭和初期まで当たり前のように使用されてきました。ご多分に漏れず、夏目漱石センセイの小説は、「文語体」でなければならなかったのですね。


 さらには、「文語体」であれば良いか、というとそれだけでは不十分で、いかにも夏目漱石センセイが書いたような文章でなければならない、つまり、まるで夏目漱石センセイの書かれた文章のようだと読者に感じていただけるような「らしさ」が存在していなければなりません。


 これは想像を絶する難しさでした。


 かつて当時の文学界にある種の「革命」をもたらした原典は、かの三島みしま由紀夫ゆきおもパロディ化を試み、『わがはいはである』を書いたと言います。その他数多の作家が同様にパロディ作品を書きましたけれども、そのいずれも「夏目漱石文体を再現しよう」などという馬鹿げた目的は持っていませんでした。あくまで自分の作品として、パロディの題材、原典として引用したに過ぎなかったワケです。


 かくしてこけばしは、大量の夏目漱石センセイの著書を読み漁り、その文体に潜む癖や法則性を探って、なんとかある程度のルールというかマナーというかトーンを見出すことができました。もちろん、こけばしはカクヨム中級者ですから完璧ではありませんし、技量も圧倒的に不足しています。モノマネ、形態模写としても明らかに経験不足であり、稚拙ちせつなレベルでした。


 たった一話、たった一文書くだけでも相当な疲労です。

 あっという間に脳内のエネルギーが枯渇して、ラムネをばりぼり噛み砕きながら書きました。


(脚注:脳という器官は、その構造上、自らエネルギーを貯め込むことができません。主たるエネルギー源となるのはブドウ糖であり、そのブドウ糖が不足すると集中力低下などの症状を引き起こしてしまいます。手軽に摂取できるラムネ菓子は、集中力アップにおススメです!)


 ですが、そうやって悪戦苦闘している間にも、他の二作品(『世界を動かすものは、ほかならぬ百合である。』と『被告人「勇者A」』)を含めたストックはみるみる減っていきます。こちらも連載を開始した以上、続きを書いて更新せねば、事実上の休載状態となってしまいます。



 そうして、最初に頓挫とんざしたのは『被告人「勇者A」』でした。



 原因は、多忙さの極みで大幅減退してしまったモチベーションでした。シノプシスもプロットもできあがっているのに、どうしても書こうとする意欲が湧かなくなってしまったのです。どんなに懸命に文章をひねくり出しても、果たしてこれは面白いんだろうか……? という迷いばかりが脳裏を埋め尽くし、次の一文字を打つのが怖くなってしまったのだろうと思います。


 最終的には、ある程度進捗していた『世界を動かすものは、ほかならぬ百合である。』の執筆もストップさせました。こちらは続けようと思えばできたのですが、その頃にはすっかり「文語体」に身もココロも浸食されてしまったこけばしがいました。それでは続けられません。


 当初の目標にはほど遠い、まったくの「負けいくさ」になってはしまったものの、最終的にラストまで書き上げることができた『吾輩は異世界転生した猫である』は、とても満足のいく出来映えとなり、フォロワーさんたちからも高評価をいただくことができました。


 めでたしめでたし。ハッピーエンド?



■こけばし第二の挑戦


 んなワケがありませんよね。


「あの人」に近づくためにはじめた挑戦に、見事に失敗し、無様ぶざま醜態しゅうたいさらす結果となったのですから。そんなこととは、読者の皆さまやフォロワーさん方も思いもしなかったことと思います。けれど、こけばしにとっては忘れ難い記憶、屈辱の傷跡となって残りました。



 そうして、再び奮起し、第二の挑戦を計画しました。

 それが現在公開・連載中の次の三作品です(ここ、大事な宣伝です!)。



 ■異世界喫茶「銀」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330654556345312


 ■被告人「勇者A」~勇者の証を得るためダンジョンに籠っていたら争いが終わってました~

 https://kakuyomu.jp/works/16817330653870628957


 ■冷たく、硬く、無慈悲なスフィア。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330655969958239



『異世界喫茶「銀」』は表面上、「異世界転移」のカタチをとりながらも、目指すのは時代小説に代表される人情モノという位置づけの物語です。


 見た目は同じ「異世界モノ」ですが、『被告人「勇者A」~勇者の証を得るためダンジョンに籠っていたら争いが終わってました~』に関しては、「人間対魔族の争いで魔族が勝利したら?」というIFもしの延長線上にあるであろう「勇者=戦争犯罪人」という視点で描くファンタジーの姿を借りた法定モノ。


 そして、『冷たく、硬く、無慈悲なスフィア。』に関しては、先のふたつとはがらりと変わって、宇宙から飛来した謎の生命体に立ち向かうひとりの女子高校生と、運命を共にするくまのぬいぐるみの戦いを描いたSFスリラー。


 この三作品であれば、事前に構築した世界観や設定、シノプシスやプロットから判断する限り、執筆にかかるコストはほぼ同等であり、かつ、ジャンルや方向性の異なり、バランスも良いだろうと判断できましたので、執筆および連載を開始しました。



 少し話を戻します。


 前回の敗因は、作品ごとの執筆コストに格差があったことでした。そこさえクリアできていれば、並行して作品をし進めていくことには一定のメリットがある、と気づいたのです。


 そのメリットというのは、次に挙げる五点です。



・疲労やマンネリを感じた時には、別の物語の執筆に切り替えることでリフレッシュできる

・異なるジャンルの物語を並行運用することで、広い読者層と接点を持てる

・人気のあるジャンル・テーマと、そうでないものの反応の差を実感できる

・どれかしらの更新を実施できれば、投稿サイト上での露出を増やすことができる

・(書いている自分が)楽しい!



 なにより良かった点は、執筆作業の行き詰まりを防ぐリフレッシュ効果でした。先に述べたとおり、ジャンルも、その方向性もほどよく異なる三作品ですから、うまく脳内を切り替えることができましたし、書く内容やトリック・レトリックも重複せずに済みます。


 主人公も順に、七〇歳の珈琲店店主、論破ゲームオタクの男子高校生、ミッションスクールに通う世間知らずでウブな女子高校生と、キャラ付けから、言動、話し言葉までまったく異なりますので、混乱・混同する危険性はまったくありませんでした。




 おっと、そろそろお終いの時間ですね。

 文字数タリナイ……。


 なので、次回はさらにこの続きから。

 毎度申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。



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