第54話 対決! 祝海天源!
「皆さん、本日は学修会本部へようこそお越し下さり、ありがとうございます。お待たせ致しました。学修会教祖にして指導長、祝海天源様のご登場です。どうぞ拍手でお迎え下さい」
既存の信者達からドッと、大波のような拍手が上がった。
その瞬間照明が完全に落ち、同時にステージ上のスクリーンへ映像が投影される。
こういう演出かと、誰もが信じて疑わなかった。
しかしそうではないと、皆すぐに気付く。
夜の店と思われる場所にて、上機嫌で両脇に居る嬢の肩を抱く初老の男の姿。
それはまさしく、祝海天源だった。
普段見ている顔と違い過ぎたからだろうか、この時点でピンと来ている者はあまり居ないようだったが、徐々にざわめきが広がっていく。
すぐに場面は切り替わり、今度は祝海が若い女とラブホテルに消えていく映像が流れた。
そして今度は、調査報告書と記された書類がでかでかと映し出される。
そこには祝海天源こと小林俊比古(こばやしとしひこ)の持つ不動産が、その価格と共に写真付きで載っていた。
他にも高級車や有価証券、預貯金すらも。
果ては愛人と、その子らに支払われる破格の生活費までもが、公開された。
ホール内は一気に騒然となる。
「嘘だ!」
「なんだよこれ!?」
「どういうこと!?」
「誰かの策略だ!」
「でも天源様が映ってたぞ!?」
そんな中、一郎はホッと胸を撫で下ろしていた。
三組がその活動の中で得た資金を使い、興信所や探偵を利用した祝海の資産調査や素行調査。
その結果判明した事実が、この映像なのだ。
これこそが非暴力による学修会乗っ取り計画の一つ。
祝海の威厳を地に落として信者達に失望させ、その信心を失わせるという狙いがあった。
そしてその効果は絶大。
「言ってることとやってることが違うじゃないか!?」
「ひどい!酷すぎる!」
「ほんとにあれが天源様なの!?あんなのが!?あんな俗物が!?」
「不潔だ!」
絶叫、慟哭、怒声。
それらが暗いホール内に反響する。
しかしこの後に及んで、未だ現実から目を逸らし、見たものすら信じない者達も居た。
「こんなの合成だ!」
「いや、合成どころかあれは天源様ですらない!偽者よ!そっくりな別人だわ!私はわかる!なんでみんなはこんな低俗な映像に騙されてるの?目を覚まして!」
「そうだ!映像は偽物だ!あんな書類なんて幾らでも偽造できる!写真が本物だとしても、書類の方は偽物かもしれないじゃないか!」
「三組の連中が来るこのタイミングでおかしいだろ!?きっとそいつらが仕掛けた工作だ!」
……救いようのない。
なんて愚かで可哀想な者達だ。
そんなにも目を濁らせ、思考を支配されてしまうものなのか?
そしてこの中に自身の母も紛れているのだろうことが、一郎は悲しい。
冷静さを欠いた者達の声が飛び交う中、こんな声も聞こえてくる。
「特効室へ急げ!」
特効室とはPA卓や調光卓などがあり、映写室としての機能も揃った特殊効果室のこと。
この事態を起こした張本人が間違いなくそこに居るだけでなく、収束させるためにも必ず行かねばならない。
当然の反応である。
だからこそ、手を打っていない訳が無い。
……うまくやってくれよ、桐田、佐藤。
大事な仕事がまだ残ってるんだからな……!
実は先程席を離れた桐田と佐藤こそが、特効室を占拠していた。
桐田との話し合いの中で一郎はこの特効室の存在を知り、今回の策を思い付いたのだ。
その場所を知り、機器の操作もできる、学修会内部の人間である桐田は、この役目に打ってつけだった。
桐田と佐藤の二人は特効室へ押し入ると、そこで元々の仕事を任されていた信者を鞄に隠し持っていた凶器で脅して手錠で拘束し、そのドアにもやはり持ち込んでいた工具で幾つもの補助錠を速やかに取り付け、外から簡単には破られないようにして立て籠っていたのである。
その上暗闇に乗じ、塚原ら血の気の多い者達もフォローに向かわせてあった。
特効室へ向かった数人の学修会員達にとって、奪還することは容易でないだろう。
もう既に大きなダメージを学修会と信者達には与えたが、これだけでは足りない。
長きに渡り植え込まれた信者達の洗脳を、完全に解くのにはまだまだ弱かった。
だが抜かりはない。
桐田の話から事前に知り得た内部情報。
それを最大限に活かす、最終段階が残っている。
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