第53話 いざ本部施設へ
三組の乗っ取りに成功し、教祖の黒江と、その信者達全てを学修会で吸収するため、改宗を本部で行いたい。
桐田は学修会での上司に当たる幹部へそう願い出たところ、あっさりと大人数で本部へ入ることを許される。
そして改宗に伴い、駄目押しとして祝海に言葉を掛けて貰いたいとも要望したところ、これもあっさりと受け入れられた。
三組の破壊、もしくは吸収は祝海にとって目下の関心事。
桐田の上司も勇んで報告を上げ、それを聞いた祝海もさぞ喜んだことだろう。
こうして異例ずくめの大改宗の儀式が、学修会本部で執り行われる運びとなった。
この儀式を見届けるため、既存の学修会員達も多く参加することとなる。
祝海の教えが三組の信者の目を覚まさせ、話題の女子高校生教祖ごと吸収することになったと、権威を示すのに絶好の機会なのだから当然だ。
その当日。
三組の信者達は一所に集まり、揃って学修会によって用意された数台の大型バスに乗り込んだ。
車内で揺られること一時間。
次第に窓からの景色が緑一色となっていく。
学修会本部は高尾山から富士山に掛けて連なる、霊脈が強いとされるレイライン上の、霊穴ともいうべき特別なスポット上にあった。
やがてとある山の中腹に設けられた、広い駐車場でバスは止まる。
そこには既に到着を待つ数人の学修会信者が居り、バスから降りた者らにニコニコと挨拶をした。
「皆さんこんにちは。本日は遠いところ、ようこそ学修会本部へ。会場までは私共が案内致します」
学修会員達は目に力がこもり、ギラギラと、生きていることが楽しいとでも言わんばかりの、精力に満ちた表情を浮かべている。
よく洗脳ができているなと、一郎は感じた。
あんなにぱっちり目を開けているのに、自身の姿すら客観視できない程に盲目的。
自身が見下される人間だとも気付かず、世間を見下している目。
そんな本心すら隠し、いい人間を演じている。
いや、そう信じきっている。
吐き気を覚えた。
「それでは皆さん、私についてきて下さい」
桐田、黒江、佐藤を筆頭に三組の幹部らが続き、その後ろには外部の信者達も続く。
その末席に、桐田から極秘に参加を許された一郎も紛れていた。
外観からはそうとはわからないような、モダンなコンクリート製の豪邸といった佇まいの学修会本部。
だがひと度敷地内に入れば、その豪邸に見えた建物すら施設の一部だとわかる。
谷という立地を利用し、奥の施設群を隠すため、普通の豪邸のような建物をあえて入り口に配していた。
まともな世界とは隔絶された場所なのだ。
そこへ一歩足を踏み入れると、やはり一郎にも緊張感が走る。
もちろんこの場に居る三組信者全員が、その異様な雰囲気に緊張していた。
やがて辿り着いたのは学校の体育館の数倍はあろうかという大講堂。
そこで皆指示されるがまま着席する。
「どうぞ皆さん、お掛けになってもうしばらくそのままお待ち下さい。じきに我々の教祖も参りますので」
そんな中で桐田と佐藤が席を立ち、案内をしてくれた信者の一人と二言三言話し、この場を離れた。
今回の功績が認めれ、祝海から個別に御言葉を賜る機会を、改宗の儀式が始まる前に設けられていたのだ。
後ろの席に腰掛けた一郎は、そんな動きを祈るように見守っていた。
まずは予定通り……。
それから十五分後。
ホール内の照明が薄暗く抑えられ、ステージに進行役と思しき女信者が上がる。
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