第51話 本当のサプライズ
気持ちの悪い奴だと、一郎は思った。
だが、それ以上だと知る。
「俺は黒江の神々しさに驚き、それを意のままに操る鈴木君の凄さに感服したんだ。敬愛なんてもんじゃない、崇拝だよ。一気にその対象になったのさ!ああもう、この人についていこう。きっと面白いものが見られるぞ!世界はこんなにも色彩豊かだったんだって、気付きを与えられたよ」
一郎は絶句したが、単なる沈黙であるよう、表情を変えないことに努めた。
「もちろん、鈴木君のことはとっくに、それこそ最初に色々と調べたよ。母親が学修会本部施設に居ることもわかった。そこがずっと引っ掛かっていたんだけど、ある時不意に気付いてしまったのさ。君が三組を作って何をしようとしていたのかを」
一郎は眉をひそめる。
やはり、気付かれていたか。
がらりと雰囲気とトーンを暗く変え、桐田は続けた。
「……がっかりだよね。俺の考えが及びもしないようなことをしてくれるものだとばかり思っていたのに、どうやら鈴木君は母親を助けるためだけに三組を作ったんだから。……いや、それはそれで凄い執念だけどさ。なんだかつまらないよね。裏切られた気分だったよ」
勝手なことを言う奴だと一郎は思う。
それも本気で言ってるのだろうところが、とても質が悪い。
「でもすぐに、こうも思ったんだ……。俺が鈴木君の地位を奪ってしまえばいいんだってね」
桐田の様子のおかしさが増していった。
「……震えたよ。今の俺はそれをできるポジションに居るんだからさ……。ああ、俺がフィクサーになったなら、何をしようか。そうだ、集金システムを構築しようか!芸能人やセレブもこれから入信するだろうし、パイプやコネを様々な業界に作ろうか!将来的には信者同士の繋がりを利用し、それぞれの企業の経営力を高め、最終的には利権主義団体を形成していこうか!女を使ってセレブや政治家の弱味を握るのもいい!……夢が膨らんだね、胸一杯にさ!」
金と女と権力欲。
実にわかりやすく野心的な男だと、一郎はその底の浅さを見る。
「それでお前は三組を手に入れた。三組を学修会に吸収させるって密命も簡単にこなせたはずだ。なのになぜ、わざわざ学修会と戦おうと?どうしてそうなる?幹部にも目を掛けられてるんだろう?」
桐田は眉をしかめた。
「……話、聞いてた?なんでこんな楽しい未来が待ってるのに、この俺が学修会なんかに尽くさなきゃならないんだ?このまま学修会に居ても出世には限界がある。でも三組は違う。可能性しかない。それにむしろ、吸収されるのは学修会の方だろ?黒江を手に入れた今の俺なら、学修会すらも手中に収めることができるだろうさ。時代は三組だよ……なんてね」
なんて奴だ。
だがこれで、一郎にもよくわかった。
結果的に、学修会潰しが既定路線だということが。
もう一つ疑問と知りたいことがあり、一郎は訊ねる。
「……どうやって黒江をその気にさせた?あいつが自分から暴力を手段として使うのをよしとしないような奴だってのは、近くに居た僕が一番よく知ってる」
それを聞いた桐田はキョトンとしていた。
「……じゃあ君は何もわかっていなかったんだね」
「……何?」
ニッと口の端を上げ、桐田が言った。
「俺も驚いたんだけどね、学修会を潰してしまおうと、そう持ちかけてきたのは黒江様からなんだよ」
一郎は目を見開いて驚く。
「なんだって」
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