第50話 桐田サプライズ

 この日の放課後、一郎は桐田に呼び出され、伏木神社へ向かった。

 そこには桐田だけでなく佐藤と、意外なことに根尾も居るではないか。

 どういうことだろうかと一郎は思案し、黙っていると、根尾が気まずそうに話し出す。

「ごめん……。裏切ったこと、怒ってるよね?それを教えなかったのも、桐田君に口止めされてたからなの。本当にごめん。……でももう、桐田君に付いていくしかなくて……。だって、どうしても……」

 その先は言われなくても、一郎にはよくわかっていた。

「いいんだよ、両親を取り戻したい気持ちは僕もよくわかる」

「そう言って貰えると助かるよ……。でもね、過程は変わってしまったけど、これで私達の目的は達成できる」

「ああ、そうみたいだ」

「悪いようにはしないって」

「……そうか」

 根尾が言うのだから、本当にそうなのだろう。

 でなければ、桐田に彼女を説得できなかったはずだ。

 だが、なぜそうなったのかがわからない。

 一郎は説明を求め、桐田に目をやる。

 ニヤニヤとしながら、彼は言った。

「サプライズだよ。驚いてくれたかい?」

「……まあね」

「なんだい、つれないねぇ。まあいい。この先を話す前に一応、鈴木君が大逆転でも考えて録音機器でも持っていないか確かめたいから、体を触らせて貰うよ」

「どうぞ」

 桐田は満足するまで身体検査をしたのち、話し始める。

「実は俺は学修会員なんだ」

「……なんだって?」

「ああ、知らなかった?とっくに調べがついてるものかと思ったけど……そうか、やはり俺は随分と鈴木君に舐められていたんだな。……まあ、そのお陰でこうやって君を出し抜けた訳だけどさ」

「……」

「親が学修会に嵌まり、一定の地位を得てね、俺も入信させられたんだ。もちろん、俺自身は学修会のやることを信じていないし、祝海に心酔もしていない。……ただまあ、組織の中で地位を高めていくことには興味があった。ゲーム的で面白いんだ」

「なるほどな」

「そんな俺にある日、学修会からとある密命が下された。三組を監視し、必要とあらば内側から潰す……ってね。信頼のできる優秀な信者で、偶然にも三組の教祖と同じ学校かつ同じクラスに居たから、都合がよかったんだろう。ちなみにいじめ解決ボランティアが二件目を終わらせた時に、この極秘任務を幹部から与えられたんだ。それ以前に俺が三組に入っていたことは偶然さ」

 これもなるほどと思いつつも、一郎は偶然ではないのだろうなと感じていた。

 端から桐田は野心を持って僕の懐に入り込み、何かをしようとしていた筈だ。

 今ではそう強く感じる。

 桐田は続けた。

「俺が三組の現状を幹部へ報告すると、彼らは心底驚いていたよ。高校生にこれだけのことができるのかってね。君も褒められて嬉しいだろう?」

 そう訊ねられたが、一郎は黙っていることで話を促す。

「……そして幹部達は方針を転換した。せっかく三組が存在感を持って、その勢力を拡大したのだから、うまく黒江ごと、三組の信者達を学修会へ引き込もうという策にね……。これは本当に凄いことだよ、鈴木君。君は誇っていい。俺はずっとさ、君をどこにでも居るつまらない奴だと見誤っていたんだ。でも違った。俺の予想を遥かに越えて面白い奴だった。大それたことを考え、実行し、成功させた、化物だった。……正直恐かったよ。こんな奴が身近で、普通の人間の振りをしていたんだから」

「酷い言いようだな」

「前に言ったろ?俺は褒めてるって。今のはその最上級さ!」

「……」

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