第48話 新三組、蠢く

 この日もいつものよう、朝の会が開かれる。

 だがいつもとは違い、戸川が教室の前後の戸を閉めた。

 非信者や、佐伯のような裏切り者や、教師達に話を聞かれないようにするため、これからはそうすることにでもなったのだろう。

 それにしても、クラス内にも僕を始め、非信者はいるはずだが……。

 そうは思ったが、もはやどうでもよかった。

 一郎は聞くともなく、教卓の前で話す桐田の言葉を聞き流す。

 だが、そうもしていられなくなった。

 桐田から、何やら不穏なものを感じたのだ。

「我々三組によるいじめ解決の活動は実を結び、もはやこの地域からいじめはほぼ撲滅された。よって黒江様とも話し合い、三組は新たな活動……次の段階へ移行することとした」

 教室内がざわつく。

 その反応を見るに、この話は幹部すら知らなかったようだ。

「それでは三組が新たに行う奉仕活動の内容を伝える。……黒江様」

 桐田に促され、黒江が立ち上がる。

 そして皆を見据え、はっきりとした口調で話し始めた。

「学修会という、新興の宗教団体があります」

 えっ。

 ドクンと大きく一郎の心臓が跳ねる。

 黒江は続けた。

「学修会に関わり、職を失ったり、住む家を失ったり、財産の全てを失ったり、一家が離散し、家族を失ったりした人が、この町にも多く居ると聞きました。間違いなく学修会はカルト団体です」

 これは……。

 どういうことだ……?

 何が起こっている……?

 一郎は混乱しながらも耳に全神経を集中し、黒江の次の言葉を待つ。

 するとその口から、驚くべき計画が語られ始めた。

「学修会の被害に遭った人の全てを、個々に救うことは現実的ではありません。ですが、これ以上新たな被害者を出さないようにすることはできます」

 少しの間を置いてから、黒江は本題を告げる。

「カルトと戦いましょう」

 ――なんだって!?

 一郎は我が耳を疑った。

 この場に居る誰よりもだ。

 しかし、耳に異常は無い。

 それにいくら教室の戸を閉めたからといって、非信者も居る中でなんてことを!?

 一体桐田は何を考えてるんだ!?

 それとも黒江が暴走を!?

 なんにしても理解不能だ……。

 しかしその答えも、すぐにわかる。

「学修会と戦うべき理由はあります。……三組の教義を思い出して下さい。その一つに『暴力禁止』があります。そして三組やその仲間が攻撃を受けた時はそれすらも覆し、限定的に暴力も辞さないという『自己防衛』もあります。……そして三組にも、学修会の被害に遭っている信者の仲間が居ます」

 まさか黒江は、それが

 僕だって!?

 いや、でも僕は破門にされたし、どういうことだ!?

 黒江は続けた。

「間違いありませんね?」

 その問いに答えるよう立ち上がったのは――根尾だった。

 そんな!?

 根尾!?

 なんで!?

 いつ信者に!?

 どうして僕に言わなかった!?

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