第47話 空虚な日々

 ああ、もう本当に終わったんだ。

 何もかも犠牲にしてきた結果がこれかよ。

 ……根尾になんて言おうか。

 絶句するだろうな。

 それから怒るんだろう。

 僕の詰めの甘さを……。

 時間が経てば経つ程連絡が億劫になることは一郎もわかっていたので、どう伝えるかも考えない内に、勢いで電話をかけた。

 そして要領を得ないまま、起こった出来事をぐだぐだと伝える。

 根尾はそれを、静かに聞いていた。

 全てを話し終え、沈黙が訪れる。

 予想に反し、根尾は一郎を責めも怒りもしなかった。

 それどころか、謝ってすらくる。

「……今までずっとごめんね。鈴木にばかり、ずっと大変な方をやらせて……。私は簡単なことしかしてないから、なんのハプニングも起きなかったってだけだし、仕方ないよ」

「いや、根尾はよくやってくれたよ。僕の指示通りのことをやってくれた。でも僕は自分で決めた道筋すら……」

「もういいの。やれることはやったよ。二人でどうにかなるようなことじゃなかったのに、それでも鈴木とだからここまでやれたんだし……」

 根尾は完全に、諦めるつもりのようだった。

 一郎も理解する。

 心が折れて、当然だと。

 学修会に親が奪われてから、二人は年相応に楽しむことを止めていた。

 お互い深い友達付き合いもせず、恋人も作らなかった。

 学修会と戦ってでも、親を取り戻すという意志が鈍らないように。

 心の拠り所を作ることで、それが逆に足枷にならないように。

 青春を犠牲にしたのだ。

 これは二人で取り決めた訳では無いが、二人ともが自主的にそうしていたのである。

 常に周囲の者が眩く見え、つらい思いも沢山した。

 それでも親を取り返す可能性を少しでも高めるために、禁欲的な生活を享受していたのだ。

 でも、失敗した。

 心が折れて、当然である。

 どちらからともなく、電話を切った。

 空虚だ。

 家まで自転車を漕ぎながら、一郎は自身の腹の中から内臓が全て消え去ったかのような空虚感を味わう。

 そしてそんな感覚は寝て起きても、食事を取っても消えなかった。

 土日を挟み、翌週――。

 義務感に駆られるがまま登校した一郎。

 そんな彼を待っていたのはクラスメイトによる――完全無視。

 それも徹底的な。

 誰とも目すら合わない。

 三組信者以外の者ともだ。

 きっと桐田辺りが僕が孤立するよう、非信者にも何かしら吹聴したんだろうな。

 まあ、今更もうどうでもいいけど。

 ……ただ、今なら黒江の気持ちがよくわかるな……。

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