第45話 さんさんさん、簒奪三組

「鈴木君を信じ、黒江様の代理のような役割を任せたがために、彼は増長し、我々も黒江様も不利益を被った。聖書にも出で来た偽救世主のような存在。それが鈴木君なんだよ。三組の乗っ取りでも画策していたんだろうが、残念だったね」

 それはお前の目論見だろう。

 一郎はそう言ってやりたかったが、言ったところで意味が無いので飲み込んだ。

 これまで黙って聞いているばかりだった、桐田以外の者が声を上げる。

「まさかお前がそういう奴だったとはな。がっかりだよ」

「お前マジでクソ野郎だな鈴木」

 渡辺と塚原だ。

 二人はわざとらしく桐田の味方をしてみせた。

 ……なるほど。

 桐田は金と女絡みの問題で二人の弱味を握って、それを見逃すと恩を売って味方につけたって訳か。

 僕に二人の愚行を話した時には既に……。

 いや、それともあの時の僕の二人への失望の言葉を録音して聞かせ、裏切りを決定的にさせたのかもしれない。

 まあ、今更こんなことを考えたところでなんの意味もないのだが――。

 渡辺と塚原が口火を切ったことで、一斉に他の者達も一郎へと罵声を浴びせた。

 藤咲が涙目で叫ぶ。

「ずっと信じてたのに、最低だよ!まさか、鈴木君がこんな人だったなんて!」

 加藤も。

「死ねよカス」

 戸川も。

「最低ですね」

 遠藤も。

「何考えてるか前からわかんなかったけど、マジで引くわ。キモ……」

 佐藤も。

「黒江様を馬鹿にするなんてぇ、鈴木君ひどいよぉ」

 さすがの一郎も、心に来るものがあった。

 どの口で言うんだよ……。

 黒江を直接的に、間接的にいじめていた奴らがどの口で言うんだよ……?

 何もしなかったくせに、知らないくせに。

 利用しようとしたとはいえ、僕は黒江へのいじめを止めさせたっていうのに、こいつらは……どの口でそんなことが言えるんだ!?

 桐田が統括する。

「もう話し合いは十分だろう。というかそもそも、君への処分の内容も全会一致で決まってたんだ。……黒江様」

 もはやこの場において、一郎にできることなど何もなかった。

 桐田に促された黒江が、淡々とその内容を告げる。

「鈴木君を破門とする」

 その瞬間、一斉に拍手が沸き起こった。

 破裂音の一つ一つが痛いくらい鼓膜に、肌に、心臓に刺さる。

 音の暴力の洪水に押し流されるよう、一郎は部屋のドアを開け、外に出た。

 ドアを閉じてなお、けたたましい拍手の音は聞こえてくる。

 一郎は逃げるように、カラオケ屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る