第42話 敵対する教師
もはや一郎は塚原や渡辺の起こした煩わしい問題にかかずらっている暇など無かった。
なぜならこの時の一郎には教師との対立という、喫緊の課題もあったからだ。
それは吉田による、放課後の教育指導室への呼び出しから始まる。
それにしても、なぜ一郎なのか。
そう考えた時、ついに佐伯が牙を剥いたのたのだと感じた。
しかし逆を言えば、彼女にはそれくらいのことしかできなかったともいえる。
長期的にはメリットの方があった。
それにしても、腹が立たない訳ではないが。
吉田は最初、一郎に生徒指導室での聞き取りと称しておきながら、実際には三組を解散しろという要請――というよりももはや内申を人質とした強要をした。
彼らしい汚いやり口だが、受験や就職を控える高校生には、当然かつ有効な手段ともいえる。
そしてそんな手段もこと一郎に関しては、決して有効とはいえない。
なぜならば成績も進学も、一郎にはどうでもいい事柄だったのだから。
学修会への復讐と奪還こそが、至上の目的。
よって一郎はこれを拒否する。
「僕らがやっているのは、別に届けを出した宗教法人じゃありません。解散も何もないですよ。遊びのようなものなんですから。ごっこ遊びだと、そう思ったから先生達だって今まで放っておいたんですよね?」
図星だったのだろう、吉田はピクリと眉を動かし、苛立ちながら言った。
「届けだとかはどうでもいいんだよ。いいから解散しなさい。この後すぐにでも」
「僕にそんな権限はありません。解散しろと言っても誰も聞きはしませんよ」
「なるほどな」
一瞬何か考えてから、吉田が呟く。
「やはり黒江か」
まあ、表向きの教祖は彼女なのだからそうなるだろう。
だが、それよりも不可解なのは、そんな黒江を置いて、僕をまず呼んだことだ。
……やっぱり佐伯先生か。
一郎は確信を持つ。
曲がりなりにも三組内部に入り込み、僕の言動を見聞きしていた彼女なら、黒江が傀儡であり、誰がその裏に居たのかもよくわかったことだろう。
もう少し時間があれば佐伯先生の個人的な問題も調べあげて、彼女がもっと本気で三組と黒江を信仰するように仕掛けられただろうが、そこまではできなかった。
教師が動き出す時間稼ぎにはなっただろうが、持て余し気味で、その扱いは決してうまくなかったなと一郎は反省する。
それから、こう訊ねた。
「クラスの問題なのに、佐伯先生は同席しないんですね」
吉田は動揺していた。
まだ教師達は佐伯を利用できると考えていたのだろう。
苦し紛れに、吉田は言った。
「佐伯先生にも仕事があるんだ」
「三組の内情を探る仕事ですか?」
「……もういい、帰っていい」
一郎は席を立ち、指導室を後にする。
「失礼しました」
この翌日には、同じく黒江が個別で呼び出され、詰問を受けた。
だが黒江は一郎が指示した通り、だんまりを通す。
自身のいじめ問題すら解決しない、その気すら無かった吉田に、黒江が何かを話す訳など無いのだ。
そしてついにその翌日、一郎は黒江と共に米山に加え、学年主任の吉田にも呼び出される。
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