第41話 桐田の才
その日桐田は、表情に陰を作りながら言いづらそうに一郎へこんな報告をした。
「……実は塚原君が新たに獲得した外部の信者に対し、個人的に金銭の要求をしているようなんだ」
「……は?」
寝耳に水とはこのことだろう。
「一部強引に徴収したり、暴力も振るってるようで、不満を持った者達が報告をしてきたよ。それだけじゃなくて、勝手に信者を集めて賭けを主催したりもしているらしい。そこから更に、金を貸したりも……」
忌々しい……。
反社予備軍め。
自分の立場も忘れ、そう怒りを爆発させてしまいたかったが、一郎はなんとか堪えた。
「知能の低い不良らしいな。バレないとでも思ってたんだろう。でも金銭の問題はまずいな……。警察や弁護士なんかに駆け込む者が出そうだ……」
桐田が予想外の言葉を続ける。
「……これ以外にも」
「あの馬鹿はまだ何かやってるのか?」
「いや、塚原以外にも問題行動を取っている者が居るんだ」
我慢できずに大きく「はあ」と嘆息した。
「……誰だ?」
「こっちは報告を受けたばかりで、まだ調査中なんだけど」
「報告を受けていて、それを僕に上げなかったのか?」
「ごめん、忙しいだろうし、こっちで処理できると思ったんだ」
もはや一郎には、不機嫌さを隠す演技をする気力も無い。
「……それで」
先程以上に言いづらそうに、桐田が話す。
「渡辺君なんだけど、古参で幹部ということを利用して、やはり新規の女性達に手を出しているようなんだ」
「今度は下半身絡みか……」
このタイミングで二つも問題が表面化って……。
ふざけるなよ……。
「しかも渡辺君は性行を強要した相手へ、勝手に黒江と直接話をしたり、触れ合う権利みたいなものを与えてるって話なんだ……。もちろん彼にそんな権限は無いし、約束が履行されることもない。相手女性達から不満の声が上がっているんだ」
「最悪だ……」
一郎は比喩でもなんでもなく、自然に頭を抱えた。
準備が整ったと思っていた矢先に、なんでこんなに次から次へと問題が出てくるんだよ!?
どうして今、このタイミングで!?
クソッ!
……全然、コントロールできていなかった。
僕に思惑があったように、みんなも……それぞれの思惑のために動いていたのか……!?
そして僕はそれに気付けなかった……。
なんて愚かなんだ。
「猿どもが……」
「……苛立ってるね」
「そりゃあね。苛立ちもするだろう」
この空気を変えたいのか、桐田がふざけた調子で言う。
「でもまあ、ハーレムは男の夢だからなぁ」
「理解を示してる場合じゃないだろ。……そういえばお前、最初は三組をセックスカルトにしたいみたいなこと言ってたよな……?」
「ははは、忘れてくれよ」
桐田はばつが悪そうに頭を掻いた後、今度は真面目な声で言った。
「……冗談はさておき、この問題は俺がなんとかしておくよ」
「解決できなかったから、今僕に報告してきたんだろ?」
「ああいや、対処はできると思ってるよ。ただ今の俺には無理だから、もう少し鈴木君のような権限が欲しいんだ。だから鈴木君から黒江様を通して、俺の言うことを聞くようにみんなへ伝えてくれないかな?集会を開いて二人の罪について話し合った後で、見せしめとして罰したいんだ。これなら被害者のガス抜きにもなるし、怒りも収まると思うんだけど、どうだい?」
……なるほど、集会なんかを桐田が勝手に開くことは現状できないからな。
できるのは僕くらいだ。
そう納得した上で、一郎は――。
「……任せてもいいのか?」
「そのための幹部だろ?」
「わかった。君にその権限を与える。そしてそれを周知させよう」
「ありがとう、信じてくれて」
この予想外に頼れる仮面優等生が味方でいることが、とてもありがたいと一郎はしみじみ思う。
「本当に助かるよ、桐田君」
桐田が居てくれてよかった。
信者にはなったが、教祖を信じているというより、状況を楽しんでいる様子の桐田。
のめり込んではいないが、こういう者が居てもいいだろう。
そう許容した、過去の自分の判断を褒めたい。
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