第40話 満願

「また警察に行くとかいう子が居たから、止めといた。親がそうした方がって言ってるみたいで、いずれこっちも限界が来そう」

「……そうか」

 久し振りに一郎と根尾は夜の公園で、こうして顔を合わせて話をしていた。

 三組を否定しながらも、三組に論破される役であり、三組否定派のガス抜き役でもあると同時に、その拠り所としても機能。

 そんな大役を根尾は負っていた。

 つまり最初からマッチポンプとして機能していたのだ。

「あんなアホなこと真に受けるの?高校生がカルトをやってるって?どうせ誰も、警察も相手してくれないよ。頭おかしいと思われて終わり。大人なんて頼りにならない。私達がしっかりしてさえいれば、大丈夫」

 そうやって三組を否定し、バカにもしながら、その実警察などに相談しようという者に寄り添いながらもやんわりと、しかし確実に止める。

 そんな役割を見事に果たしていた。

 根尾は痺れを切らし、一郎へ訊ねる。

「ねえ、いつまでこうしているの?」

「……そうだな。そろそろ動くべき時期なんだろうな」

「なら……」

「うん、具体的な日取りを決めよう」

「わかった」

 ようやくあの学修会支部での出会い以来の念願が、これから成就するのだ。

 感慨深そうに、根尾が告げる。

「……やっとだね」

「ああ、長かったな」

「黒江さんやみんなには悪いけど……」

「うん」

「警察も公安もまともに動かないから、こうするしかないんだよね」

「その通りだ」

 準備は整った……。

 圧制はただ圧制によってのみ、そしてテロはただテロによってのみ。そしてカルトにはカルトをぶつけてやることで、打ち破ることができる。

 一郎達は三組の教義を利用し、誰も把握できていない外部の仲間が学修会にやられたということにして黒江に煽動させ、本部に乗り込み祝海をリンチし、無様に命乞いをさせ、その神性が偽りであったことを信者に見せつけ、お互いの親を取り戻すという、全面対決をするつもりでいた。

 それでも祝海を信仰し、なおもついていこうとするなら、力で無理矢理にでも連れ戻し、その洗脳が解けるまで監禁することすらいとわない。

 むしろ、そこまでせねばならないだろうと、二人は見込んでいた。

 もちろんそんなことを行えば、怪我人も逮捕者も出るだろう。

 だがそんなことは関係なかった。

 自分達の目的さえ達成できたなら、それでいい。

 馬鹿なカルトに嵌まるような奴らは痛い目を見ればいいのだ。

 僕らはあの日の夜に捕らわれたままだったが、それもようやく終わる。

 それに今気づいたが、祝海天源と黒江朝美。

 名前からして予感めいているじゃないか。

 祝われた海を黒い江(うみ)が飲み込み、天の源を美しい朝が塗り替える。

 一郎にはそんな風に、運命が読み取れた気がした。

 ――全ては順調。

 二人の決めたエックスデーは、刻一刻と迫っていた。

 だが、このタイミングで一郎すら知らなかった、三組内部に起こっていた問題が表面化し始める。

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