第34話 いじめ解決ボランティア計画

 こうして、いじめ解決ボランティア計画が動き出す。

 そんな中、渡辺が疑問を口にした。

「でもさ、いじめを解決するって言ったって、どうすればいいんだ?簡単じゃなくね?」

 一郎はスマホを片手で操作しながら、こう返す。

「まずは教師を頼るべきだろうね」

「は?鈴木さぁ、マジで言ってんの?教師が動いてどうにかなるなら、黒江様のいじめもとっくに解決してただろ?」

「無理無理、先公なんかにどうにかできるかよ」と、塚原もその意見に同調した。

 だが、一郎は自身の発言を曲げる気はない。

「そりゃあうちの担任はね」

 そう前置きした上で、続ける。

「いじめを認めれば、それに関連した業務が増えるだとか、いじめが発生した時点で査定に響くだとか、そんなことを考える教師よりは、いじめを解決したいと思う教師の方が潜在的に……というか断然多い。教師なんてやりがい搾取がまかり通ってる職業になりたがるような人だよ?わざわざそこを目指すのは、正義感の強い人かロリコンくらいだよ」

「あはは」と言う笑い声が上がる中、一郎はもう少し踏み込んだ話をした。

「……ではなぜ、熱心な教師が居ても、解決しないいじめ問題が多いのか?それはいじめ問題へ教育機関が、積極的に関われないからなんだと思う。そしてその要因を考えた時、被害者と加害者で主張が異なることが挙げられる。教師が被害者の味方をしたくても、加害者の証言と食い違えば鵜呑みにもできなくなる。被害者の味方をしたくても、公平に判断を下さなくちゃいけない第三者には難しいんだ」

「そういうことなのか」と、塚原も納得する。

「加害者達が口裏を合わせていた場合は尚更だ。そして保護者を交えての話し合いでも、この情報の不均衡さから水掛け論が始まり、事態の収拾は難しくなるし、教師と保護者の間にも余計な軋轢が生まれ、いじめ解決以外の問題も発生する」

 ここで遠藤が話に割って入った。

「ちょっと待ってよ……。そんなに大変とか、ウチらに解決できなくない?」

 まあ、そう思うよな。

 一郎は首を横に振る。

「いや、そんなことはない。問題ははっきりしてるじゃないか」

「どゆこと?」

 ピンと来ていない渡辺へ言った。

「証拠があればこんなことは起こらない」

「……確かに!?でも……」

「どうやってその証拠を見つけるのかってことでしょ?」

「あ、うん、そう……ところで、さっきからスマホいじって何してんの?」

 そう渡辺から咎められた一郎が答える。

「決まってるだろ?ネットでICレコーダーを注文するんだよ。……どんなのがいいかな。小学生が持っていておかしくないデザイン。あるいは存在自体が周囲に見つからない小型のもの。なおかつ操作が小学生でもできるような単純なもの。一番はその三つの条件の全てを満たすものがあればいいんだけど……」

「……」

 ぽかんとした表情を浮かべてから、渡辺は言った。

「……もうそういうのは鈴木が独断で決めていいんじゃね?」

「そう?じゃあ僕の方でいい感じのを選んでおくよ」

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