第35話 ご奉仕開始!
早速この日から、三組はいじめ解決に向け動き出す。
ターゲットであるいじめ被害者の女児の下校中を狙って三組の女子二名が声を掛け、こちらが把握している状況と、助ける用意があること、全面的にバックアップすること、いじめが解決するまでそれらをやり通すことを誠実に伝えた。
誰でもいいから助けて欲しい。
そう願っていたのだろう少女は途中から涙を流しながら、「お願いします、ありがとうございます」と、震える声で何度も伝えたという。
この話が、皆のモチベーションを更に高めた。
何はともあれ、まずは証拠集めだ。
メッセンジャーアプリやSNSにわかりやすく証拠があれば、そのスクリーンショットを保存。
偽装を疑われないよう、念のために画面を端末ごと写真に納める。
だがほとんどの場合でそううまくもいかない。
昨今のネット炎上を目の当たりにし、ネットリテラシーを自然と身に付け、いじめ加害者側も往々にしてズル賢くなっているもの。
閉じたネットコミュニティ内でいじめに対する情報が交わされ、いじめの対象者がそこから弾かれていることも多数あるだろう。
まともな教師ならば、真っ先にチェックする部分でもあった。
いい知らせと、悪い知らせ。
まず悪い知らせの方だが、少女の担任はそこまで熱心なタイプではなく、ネットの状況もまともに確認していなかった。
そしていい知らせは、今回の場合においてはネット上から簡単に証拠が手に入ったこと。
しかし、最初から失敗するのだけは絶対に避けなければならない。
念には念を押し、一郎がネットで購入したICレコーダーを少女に持たせ、しっかりといじめの音声を録音した。
その音声データを文字起こしし、そこから紙面に要点をまとめ、ネットから入手したデータのスクショと共に、三組は少女の通う小学校へと証拠を提出。
私立ならば管理元の学校法人。
そこで駄目なら県知事にも提出すれば効果的だろうが、今回は公立だったため、当該校のみにとどめる。
それに幸いなことに、そこまでやらずとも解決した。
意外な程にあっさりと。
三組という外部からの通報と、証拠があったことで、小学校としても動かない訳にはいかなかったし、また加害者やその親とも水掛け論が発生する余地も無く、教師達も解決が容易だったのだ。
もちろんしこりは残るし、被害少女もすぐに普通の学校生活を――とはならない。
だが、それでも悲惨な状況からはひとまず脱することができた。
それになにより被害少女自身が、これからの未来に希望を持ってくれた。
大成功と言えるだろう。
彼女からの三組へお礼を言いたいという要望に応え、この日一郎達は公園に集まっていた。
大勢の人の前で話すことは得意でないだろうに、それでも勇気を振り絞り、少女が感謝を口にする。
「あの、高校生のお兄さん、お姉さん。私のことを、いじめから助けてくれて、ありがとうございました」
皆、笑顔で応えた。
「どういたしまして」
「よかったね!」
「またいじめられたら俺達を頼っていいからな!」
「いじめる奴が居たらガキだろうが容赦せずに俺がボコしてやるよ!」
「それは駄目だよ!?」
「冗談だ馬鹿!」
「あはは」と、皆失笑する。
少女もだ。
皆で共に善行を成し遂げた達成感。
そして結束感。
それらは相当なものだ。
この三組という組織の誇らしさ。
そこに所属する特別感。
とてつもない自己肯定感を皆が覚えていた。
それに他者とはいえいじめを解決することは、教祖である黒江をいじめていた過去の自分達への赦しにも繋がる。
そして黒江自身の救いにも――。
一郎の筋書き通りだった。
更に、そこには続きがある。
意を決したように、少女は言った。
「……あの、私も三組に入れますか?」
「えっ」
「宗教が何かはよくわからないけど、こういう人を助けることを、私もしてみたいです……。お父さんとお母さんも、入りたいって言ってました」
この意外な申し出に、皆で顔を見合わせる。
だが、そんな中で一郎だけは――。
溜め息が出そうな程、完璧な流れだな。
この事態を予期していたため、戸惑うことなく、平静を保ったまま告げた。
「いいよ。大歓迎だ」
「えっ」という視線が集まる中、続ける。
「いじめられていることを打ち明け、勇気を出し、三組に助けも求めてくれた。……もう彼女の懺悔は、済んだものと考えていいだろう?……ですよね?黒江様」
「い、いいと思う。困っている人を助けたいなんて、立派……」
自然と、拍手が起こった。
こうして少女は、学校外で初の三組信者となる。
もちろん両親の了承も得たし、その両親すらも通過儀礼をこなし、三組へ入信した。
大人を取り込むことにも成功した上に、この三組の行ったいじめ解決ボランティアの噂はたちまち地域に広まり、わざわざ調べずとも依頼の方から舞い込むようになる。
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