第24話 ルール作り、着々と進む
「懺悔って罪の告白だろ?弱味を握ることができるし、通過儀礼としても打ってつけだと思うんだ」
これに戸川は不快感を顕に反論した。
「それはやり過ぎじゃないかしら?冷やかしを防ぐどころじゃないでしょ」
「何もみんなに懺悔を聞かせる必要は無いさ。黒江様と、鈴木君と、後数人とか。限られた人間だけならいいだろう?」
「……そうね。みんなに話す必要は無いわ……」
戸川の心が傾いてきたのを見た桐田は、一郎へ振る。
「鈴木君はどう考える?」
……こいつ、僕を使いやがって。
まあ、いいんだけどさ。
「……アリだと思う。僕らの宗教に入りたいって人は、そもそも何か悩みを抱えていて、解決したいと考えてるはずなんだ。願いだってそう。これらはその人が抱える問題と同義だと思う。そしてそれを黒江様に打ち明ける機会もあるだろうし、そう考えると通過儀礼としてはそこまでハードル高くないのかなって」
「そう言われれば」と、納得する者が出るなか、あえて一郎はこう続けた。
「っていうのは建前で、本音もある。……これからは悪意を持った者が、僕らの中に入り込む可能性も無いとは言い切れない。綺麗事だけじゃなく、もしかしたら弱味くらいは握っておく方がいいのかもしれない」
渡辺は腕組みをしたまま、大袈裟に頷く。
「……確かに、外から見たら怪しく見えるだろうしなぁ俺ら……ってか宗教団体自体が」
「あーまあ……うん」と田中も。
それに他の者らも概ね理解していた。
それらの反応を見て、戸川は――。
「人数も絞るなら、候補に入れていいかもしれないわね、懺悔も」
そう許容する。
実はこれは、一郎が最初から作ろうとしていたルールの一つだ。
通過儀礼として懺悔をさせることで、上記以外の効果も期待している。
弱く、恥ずかしさを伴う部分を見せることで、弱味を握るだけでなく、同じ通過儀礼という経験をした仲間が周囲に居るという事実が結束力を高めるはずだ。
更には通過儀礼を突破したことで、既存の信者達から認められたと感じ、承認欲求も満たされる。
そういう支配する側に都合のいいシステムを作るつもりでいた。
もちろん懺悔は聞くだけでなく、解決できるものはしていき、感謝により繋がりと服従をより強固にする。
叶わなければ、別の癒しや慰めを与えてやればいい。
黒江を通し、僕が適当な言葉をかければいいのだ。
――そもそも、教祖を崇拝するだけで仲間だと歓迎され、肯定される構図となっている。
ほぼ無条件にだ。
悩みを持ち、共感を得たい者にはさぞ心地がいい居場所だろう。
「じゃあそろそろ、本採決を取ろうか。戸川さん」
「そうね。では賛成なら挙手を」
もちろん賛成多数で「入信に条件をつけること」と、その際に「個人情報」を提供すること、並びに「懺悔」をするという「通過儀礼」の教義は無事に可決された。
否定派は嫌悪感を訴えるなど、感情に起因する要素ばかりで、肯定派の多くの論理的な意見を覆すには弱いものばかりだったことが、この結果に繋がる。
そして先に条件の中身を話し合ったことも、肯定派が大多数を占める大きな要因となっていた。
もし否定されれば、話し合いの全てが無駄になってしまう。
そういう心理も一郎はうまく利用したのだ。
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