第23話 ルール作り

「じゃあまずは一つ目。『強引な勧誘の禁止』からいこうか。結構票が入ってるんだけど、これを書いた人はどういう意図があってこの案を出したのかな?」

 田中が挙手をする。

「あ、俺書いたよ!前に新興宗教からしつこく勧誘されたことあって、そういうの嫌なんだよね」

「なるほど、確かにそれは嫌だね。ネガティブプロモーションにもなるし。じゃあ強引な布教活動の禁止は教義に入れようと思うんだけど……ええと、採決を取る係りを誰かに頼みたいんだけど……戸川さん、こういうの慣れてるだろうし、いいかな?」

 クラスの副委員長として、こういったサポート役を既に行っていた戸川は嫌がることもなく頷いた。

「ええ、いいわよ。では反対の人、居ますか?居れば挙手を」

 誰も手を挙げない。

 全会一致で賛成だった。

「居ないようなので教義に採用します。いいわよね?鈴木君」

「うん、いいと思う。黒江様はどうかな?」

 そう訊ねられたことに驚いたのか、挙動不審な様子を見せてから、黒江も肯定する。

「あ、私もいいと思う……」

「じゃあ決定です。では次にいきます……この役もついでに戸川さん、やって貰っちゃ駄目かな?」

 あまりイニシアチブを取り過ぎるのもよくないと、一郎は一歩引いた。

 しょうがないと言った風に、戸川は用紙を受け取りながら頷く。

「……まあ、いいわよ」

 彼女は皆に向き直って問い掛けた。

「次は『暴力禁止』が教義にふさわしいかを考えていきます。……ってこれ、当たり前過ぎない?鈴木君、どう思う?わざわざ入れる必要ある?」

「入れようよ、せっかく出してくれた案だし。それに当たり前だからこそ大事だよ。特に宗教にとっては。僕らが行うのは暴力でなく、説得であるべきだ」

「……確かにそうかもしれないわね。話し合いも必要無さそうだし、採決を取ります。反対の人、挙手を。……これも反対は無しで決定ね」

 すんなりと決まるのはここまでだった。

 この後は判断が難しいものや、話し合いが必要な小数の案も登場する。

 中でも話し合いが加熱したのが、「入信に条件をつける」というもの。

 ちなみに案を出したのは堀内だった。

「そういうのがあった方が、宗教っぽいかなって……。キリスト教にも洗礼とかあるし」

「パクりじゃん。ふざけんなよ。意味あんの?」

「それは……」

 加藤に詰められ、堀内は口ごもる。

 代わりに一郎が口を開いた。

「……入信に条件があることで、冷やかしを防げるかもしれない」

 この一言でかなりの者がその必要性を重要視し始める。

「現時点で、みんながどう思ってるか知りたいんだけど、仮の採決を取って貰っていいかな?戸川さん」

「ええ、それじゃあ賛成の人からいきましょうか。賛成なら挙手を」

 こうして取った仮採決の、賛成と反対の割合はほぼ半々。

 その結果は置いておいて、まずは条件をつけるならばどんな内容にするか。

 そちらを先に決めてからという運びとなる。

 普段はあまり目立たない女子、佐藤瑠璃江(さとうるりえ)が間延びした独特な口調で発言した。

「契約書を書かせるってのはどうかなぁ?住所、氏名、年齢、携帯、メール、snsとかも含めてとかぁ。……あとは秘密は厳守するって覚書とかぁ」

 桐田が同意する。

「確かに、それなら冷やかしを排除できそうだね」

 これを受け、遠藤が言った。

「ってかウチらクラスメイトだし、個人情報も連絡先も最初から共有してるも同然じゃない?」

「だからだよ」と、桐田。

「これから入信する者がクラスメイトだけどは限らない。他のクラスや、他の学年。学校外の人間だって入ってくるかもしれない。意味が違ってくるだろ?」

「あー、そういうことかぁ」

 遠藤だけでなく、皆が納得した。

 さすがは委員長、いいことを言ってくれる――と一郎も思う。

 桐田は続けた。

「他にも、これから入信する人には懺悔をして貰うなんてどうだろう?」

 ……へえ。

 桐田がここまで言い出すなんて、予想外だ。

 何を思ってこんなことを言い出したのか。

 一郎は黙って様子を見守る。

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