第22話 宗教とは
学校から一番近いファミレスに移動した一行はドリンクバーだけを注文し、店の一角に陣取っていた。
コーラを片手に、渡辺が口を切る。
「で、宗教ってなんなんだ?」
同じくコーラに口をつけていた一郎は、コップを置いて答えた。
「……そうだな。牧師や神父みたいな指導者に、聖書みたいな教典があれば宗教かな?ああ、あと教義も」
「あー、確かにそんなイメージだな」
ここでクラス委員長の桐田一也が発言する。
「宗教指導者……は黒江様でいいとして、教義……ルール作りは必要だと思うな。聖書はとりあえず置いておいて」
これに渡辺が不快感を示した。
「おい勝手に仕切んなよ教室じゃないんだからさぁ。今俺が鈴木と話してたろ?」
「……悪かったよ」
険悪な空気になることは避けたいので、一郎が間を取り持つ。
「いや、いいんだ。せっかくなんだから自由に話そうよ。それこそ教室じゃないし、先生も居ないんだから」
「そうか?まあお前が言うならいいけど」
「ありがとう。それとなんだけど、桐田君」
「なんだい?」
「みんなのまとめ役を頼んでいいかな?普段からやってることだし、適任だと思うんだ。みんなも異論無いと思う。渡辺もいいよね?」
「鈴木がいいなら別にいいぞー」
「ってことなんだけど、どうかな?」
「うん、俺もいいよ」
そう桐田は気持ちよく、まとめ役を引き受けた。
……カーストトップは扱いやすくていい。
その立場より下に行くことを恐れる性質を利用してやればいいのだから……。
そんな本音は隠し、一郎は話し出す。
「さっき桐田君の言ったことなんだけど、実にもっともなんだ。信者の数も増えたし、これからは教義というか、ルールも必要だと思う」
渡辺はまるでサクラかと思ってしまう程、すんなり納得した。
「あーそっかぁ。……でさ、ルールって誰が作るんだ?」
「それなんだけど、みんなで作ればいいんじゃないかな?」
「みんなで?色々詳しい鈴木が作ればいいんじゃね?」
「……さすがに荷が重いよ」
一郎がそう辟易したように言うと、藤咲がフォローに入る。
「鈴木君にばかり押し付けるのは駄目だよ!少しは私達も、自分達で考えないと!」
「まあ、そうか」と、渡辺も理解を示した。
「筆記用具もあるだろうし、みんな今から五分だけ、最低でも一つか二つ案を出してみよ?紙は……あ、紙ナプキンでいっか」
皆藤咲の提案に乗り、早速鞄から筆記用具を取り出す。
一郎は微笑みながら、そんな光景を眺めていた。
人とは押し付けられたルールには反発したくなるものだが、自分達で作ったルールなら破りたくないという心理が働くもの。
自分達で……という意識を与えることが重要なのだ。
自分ルールに従って生活している者は多いだろう。
それにもしこの話し合いで自分の意見が通らずとも、この場で参加をし、意思も示した。
その事実もまた重要となる。
ようは納得感が、ルールの順守に使命感も生むのだ。
「五分経ったね。じゃあ紙ナプキン回収するよ!あ、一応名前も書いてね。詳しく訊きたい部分が出てくるかもしれないし!」
藤咲はテキパキと紙ナプキンを回収し、それを一郎の元へ届けた。
「はい」
「……なぜ僕に?」
「そうするべきだと思って……?」
「まあいいけど」
早速一郎は皆の案に目を通す。
同時にそれらを別紙にまとめた。
というのも、同じような案も多く、その票数もわかりやすく見るためである。
……いいね。
みんなちゃんと考えてくれてるじゃないか。
「結構被ってる案も多いし、そこまで数も多くないから、一つずつみんなで教義にふさわしいかどうかを、多数決で決めていこうか」
反対する者は居なかったので、そのまま進めた。
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