第16話 完全体を目指す宇宙
「あ、あの、私、考えたんだけどっ」
「……何を?」
やはり教祖が嫌だと、そう言われるのだろうか?
一郎はてっきりそう思ったが、そんな予想は外れる。
「う、宇宙が閉鎖された空間だとしたらって話なんだけど……」
「ああ、そっちか」と、拍子抜けさせられた。
「……そっちって?」
「なんでもないよ、こっちの話。……それで?」
「あ、それで、宇宙が閉鎖されていることにも、意味があるんじゃないかって、そう考えたの……」
「……へえ」
一郎は感心してしまう。
僕と同じ考えに思い至ったっていうのか。
興味を持って訊いた。
「それで、黒江さんはどう結論付けたんだ?」
「……わからなかった。か、考えてはみたんだけど……。ただ、全てのことに、意味も理由もあるんだって、気はしてて……」
「なるほど」
「す、鈴木君は、どう思う?」
一郎に長話をする気はなかったが、今黒江が言った「全てのことに意味も理由もある」という台詞には強いシンパシーを覚える。
……気が変わった。
「これは僕の考えだけど」と前置きしてから続ける。
「閉鎖されたこの宇宙はきっと、完璧を目指してるんだよ」
「……?意味がよく、わからない……」
「まあ、いきなりそんなことを言われてもそうだよな。……黒江さんはアカシックレコードって言葉を聞いたことは?」
「……無い」
「まあ、そうだよな。……アカシックレコードって言うのはオカルト界隈でよく挙がるネタなんだけど、簡単に言えば宇宙の過去と未来が詰まった、宇宙の中心にある図書館のことなんだ」
「は?」
何を言ってるんだ?とでも言いたげな顔が、黒江から一郎に向けられた。
「……まあ、そういう反応になるよな」
「あ、ご、ごめん」
「いや、正常だよ黒江さんは。……でも考えて欲しい。アカシックレコードにはこれまで宇宙で起こったことの全てが記録されている。これと、閉鎖された宇宙の話とを繋げると、どうなるのかを」
「あっ」と、すぐに黒江は気付く。
「閉鎖された宇宙で、お、同じことが繰り返されているなら、既にこれから起こる未来と同じことが過去に起きていてもおかしくない……。そのアカシックレコードに、過去と未来が書かれてるっていうのは、そういう……こと?」
「正解。付け足すと、まだ経験していない未来だとしても、これまでのデータの蓄積から十分に予測可能なものになっている可能性もある」
「あ、もしかして、予知とか予言って、アカシックレコードが読める人が居るってこと……?」
「オカルト界隈ではそう考える人が多いと思う。アカシックレコードに一部アクセスすることで、知識を得てるって」
「で、でも、宇宙にある図書館に……どうやって?」
「テレパシー……ってのは冗談で、その宇宙ってのは精神世界の宇宙のことなんじゃないかな?ユング・フロイトって昔の人は、人は無意識を通して繋がってるって考えを持ってたんだ。これをあると仮定して話すけど、昔ながらの白黒で、ハニカム……蜂の巣みたいな六角形からなるサッカーボールを思い浮かべて欲しい」
「うん……」
黒江は目を閉じ、想像しているようだ。
無防備だなと思いながらも、一郎は続ける。
「人の個々の意識がボールの表層の、それぞれの六角形だとする」
「うん」
「角膜内皮細胞も六角形だし、魂や精神がこもるには打ってつけの表現だろ?」
「うん?……うん」
この例えはピンと来ていないようだ。
一郎は一つ咳払いした。
「……続けるぞ。ボール内部の空間を、人の無意識とする。表層の六角形の意識と、この内部の無意識はそれぞれ繋がっている。……ここまではいいか?」
「うん」
「じゃあここからがサッカーボールとは違うところだ。アカシックレコードが宇宙の中心にあることと、人の無意識が繋がっていること。それを合わせて考えると、どうなるかわかるか?」
「あ、わ、わかった。なんとなくだけど……。説明が難しい」
本当に伝わっているのだろうと、一郎は感じる。
「サッカーボールの中心……つまり無意識の中心に、人々が経験したデータが無意識の層を通って蓄積されている。それがアカシックレコードと考えられる……そう言いたかったんだろ?」
「うん……!」と、黒江は力強く頷いた。
「じゃあ話を戻そう」
「……なんの話、してたっけ?」
一瞬一郎もあれ?と思ったが、すぐに思い出す。
「閉鎖された宇宙が完璧を目指してる話だよ」
「あ、そうだった……」
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