第三章 宗教家になろう!
第15話 学修会(がくしゅうかい)事件
新任で三組の副担任に配置された佐伯涼子(さえきりょうこ)は、近頃のこのクラス内に起こった変化に、どの教師よりも先に気付いていた。
生徒と歳も近く、まずは寄り添おうという姿勢を見せることで信頼と人気を獲得していた彼女だからこそ、その変化を見逃さなかったのだろう。
佐伯は三組内で突如として始まった黒江への不可解ないじめが、やはり不可解な内に自然消滅したことに対して不信感を抱いていた。
彼女は想像する。
もしや水面下で、これまでより酷いいじめが進行しているのでは?
私にすら悟られないよう、生徒達が慎重になっている?
だとしたら、絶対に止めなければ――。
担任教師の吉田は頼れない。
この短い期間でも、あの男がどういう類いの人種かはわかった。
底の浅い、利己的な事なかれ人間。
一番軽蔑するタイプの、教師の端くれにも置けない男。
だったら私が助けなきゃ――!
正義感に燃える新任教師はそれとなく、そんな雰囲気は一切見せずに、独自調査を開始する。
◇
放課後、一郎と黒江は別々のタイミングではあったが、再び伏木神社の境内に待ち合わせて来ていた。
当然、これからの話をするためだ。
開口一番、黒江が感謝を伝える。
「た、助けてくれてありがとう、鈴木君」
しかし、一郎は――。
「まだ終わってないよ」
「あ、うん。いじめが再開する可能性はあるもんね」
「それもあるけど、そういうことを言いたいんじゃないんだ」
「えっと、じゃあ、どういう……」
「今度は黒江が誰かを助けるべきだろう?曲がりなりにも教祖なんだから」
「……そう……だね……」
「むしろこれからが本番だと言っていい。気を抜くなよ」
「わかった……。あ、あの」
「どうした?」
「が、学修会(がくしゅうかい)って、知ってる?」
まさか黒江の口から学修会なんて名前が出るなんて。
一郎は内心身構えながら、訊き返した。
「あ、ああ、それがどうかしたか?」
「あ、わ、私の中学じゃないけど、そういう宗教があって、お、親が帰ってこない同級生の子も居るって、そんな話、聞いたことがあって……」
……なるほどね。
黒江が何を言いたいのか察しはついたが、あえて訊ねる。
「……それで?」
「宗教って恐いって、お、思ってて……」
「それは宗教じゃない。カルト教団だ。そんなものを作るつもりは無いし、一緒にしないで欲しいな」
「ごめっ!?ご、ご……」
「いいよ、わかったから、悪気は無いのは」
「……ごめん」
結局謝るのかよ。
まあいいけど。
「話は終わったか?」
「あ、うん」
「じゃあ、僕はもう行くから」
そう言って立ち去ろうとした一郎だったが、黒江が新たに切り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます