第17話 神様の形
「きっと宇宙はまだ、全てのパターンを経験していない」
「……なんで、そう思うの?」
「多分宇宙は、一つの完全体を目指しているんじゃないかな。黒江さんは神様の形って、どんなだと思う?」
「えっと……白髪で、髭の生えたお爺さん……?」
「ギリシャとか北欧神話みたいな?」
「う、ううん、日本昔ばなしに出てくるような神様」
「そっちか。……ちなみに僕は、神様は球体だと思ってるよ。それも完璧な形の」
「へえ……」
「神様がどんな形をしているのかってアンケートを取ると、世界中のどんな宗教の神話も神様が人型で、球体なんてほぼ見られないにも関わらず、球体だと答える人が一定数……というかかなりの数居るんだ。知識によらない、直感による神の形として、国も宗教も違うのに、球体を神の形だと言うんだよ。面白いだろ?」
「あ、き、聞いたことがある……。完璧な球体って、この世には存在しないって……。ど、どうがんばっても、人には作れないって……」
「物知りだね。……うん、その通りだ。あり得ないものだからこそ、球体が神になり得た。人々は球体に神を見た。そしてアカシックレコードっていうのは全ての経験を真ん中に集めて出来るだろ?それはきっと、球体になると思うんだ。全てを知り尽くした完璧な球体……。つまり、アカシックレコードっていうのは、新たな神を作り出すためのシステムなんじゃないかって、僕はそう考えてる」
黒江は「へえ」と感心した後、すぐに考え込んだ。
一郎は不安になるのと同時に、楽しみで堪らない。
次に彼女が、何を言うのか――。
黒江が話し出す。
「……でも、なんでそんなシステムがあるのかな……?ま、まだこの世界には、神様が居ないってこと……?」
「さあ、どうだろうね」
「……神様は一人ぼっちで、寂しいんじゃないかな……」
その黒江の言葉には、実感が籠っていた。
それに、馬鹿にもできないと一郎は思う。
「人が神を望んだ。でも実はそれよりも前に、神もまた神を望んだのかもしれないってことか」
「か、神様を……擬人化して考え過ぎかな……?」
「人は人でしかないんだから、人の尺度で考えるのはしょうがないよ」
「うん……」
「でも今の黒江さんの説が違うとも言い切れない。この宇宙が物質の世界であることから、その外には反物質の宇宙世界があるっていう学説もあるんだ。物質と反物質で弾き合い、それぞれの宇宙ができたっていう……。他にも宇宙があるなら、アカシックレコードとして完成された末に生まれた神様が、新たな神を欲してこの世界を作った。あるいは元々これらの宇宙よりも先に存在した神様が……っていう可能性は否定できない」
「もしそうなら……この閉じた宇宙も、寂しくないね……。完成した先に、友達が居る……」
たまにユーモアを見せる黒江に、一郎は笑わされた。
「ははっ!確かにな……。まあ神にそんな人間的な情緒があるようには思えないけども」
「……ごめん、擬人化が染み付いてて……。腐ってるから……」
そう黒江は自嘲気味に言ったが、一郎はすぐには意味が理解できない。
「ええと……?……ああ、腐女子ってことか?」
「す、鈴木君はタチ……いや、誘い受けかな……」
「おい聞いてないぞ。……なんかおぞましいこと言われた気がするな」
「あ、た、タチって言うのは……」
「説明は求めてないから!?」
そういえば腐女子とは、神すらもカップリングさせて凌辱するような人種であったなと、一郎は思い出す。
まあそもそも、多神教の神話自体が……。
いつの間にか、黒江に翻弄されてしまうのだった。
「でも居るなら見てみたいよな、神様を……」
「うん……」
◇
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