第12話 祟りの実感

 こうして、一郎はその誘導に成功する。

 実は一郎が働くコンビニではトレーディングカードの盗難被害や、サーチ行為による包装の傷みが問題となり、商品棚ではなくレジで管理することになっていて、購入希望者が現れた場合にのみ箱ごと客へ出し、選んで貰うという形をとっていた。

 ちなみにサーチ行為とはカードを包装の上から触り、それがレアであるかどうかを判別することである。

 もしもレアカードが一番上にあれば、表面の一部に施されたエンボス加工の凹凸を触れることで、包装の上からでも中身がわかるという訳だ。

 そして一郎はマジックアンドソードがサーチ行為可能であることを知っていた。

 つまりレアカードを意図的に当てられる。

 実際に店長が退勤するのは十八時。

 それ以降は夕方勤務の同僚と二人きりになり、比較的自由が利いた。

 三十分もあれば、レアカードをサーチ可能だろう。

 一郎は早速ネットで現在販売されているマジックアンドソードのレアカードをサーチする方法を検索し、それを頭に叩き込んだ。

 ほぼ確実に、このイカサマは成功する。

 ただし、在庫の中にレアカードが残っていればの話ではあったが――。

 そして約束の時間がやってきた。

「いらっしゃい。カードはレジにあるよ」

 コンビニへやってきた堀内一行を一郎はレジへ誘導し、箱ごとマジックアンドソードを出して続ける。

「お好きなのをどうぞ。……と言っても、もう四パックしか残ってないんだけど。幾つ買う?」

「……じゃあ、二つ買ってみようかな」

「オーケイ。どれにする?」

 まあどれにしてもレアカードが出るんだけど。

 僕がサーチに失敗していなければ。

「……」

 真剣な顔でじっとカードパックを見詰めたのち、堀内は素直に手前から二つを手に取った。

「それでいい?」

「うん」

「千百円です。ポイントカードある?」

「あ、大丈夫。現金で……。あ、丁度ある」

 支払いを終えた堀内へ、渡辺が言う。

「開けてみろよ」

「うん……」

 堀内はおもむろに包装を切り、カードを取り出すなり「あっ」と声を漏らした。

「どうした?レア出たか?それ、レアなのか?」

 矢継ぎ早に質問する渡辺に答える。

「……レアだ」

「マジかよ!?うっわ」

 すぐに遠藤はこう促した。

「もう一つも開けてみたら?」

「あ、わかった」

 そう言って堀内はもう一つの包装も切り、今度は「嘘」と漏らす。

「またレアだ……」

 この結果を受け、先程はテンションを上げた渡辺も「えぇ」と引いていた。

 遠藤もだ。

「あいつマジなんなのコワ」

 嬉しさよりも驚きや不気味さを覚えているのか、当の堀内も呆然としている。

「超常現象とかって、本当にあるのかもな……。今なら信じそうだよ」

 一郎がそう言うと、渡辺は「なんか今ならわかるわ」と同意した。

 なんとも言えない空気の中、堀内達はその場で解散し、店を後にする。

 それを見届け、残った一郎だけが笑っていた。

 明日、登校するのが楽しみだ……。

 実際にはそれを待たずとも、その日の内にメッセンジャーアプリ上でこの話題が上がり、ふざけながらも黒江の力を信じ始める者が更に増える。

 そして翌朝。

 それが顕著に表れた。

 大きな動きが起こる。

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