第11話 祟りのメリット

 登校して教室へ入るなり、一郎に渡辺から声が掛けられる。

「おっ来た!鈴木、どうだった?チャリの鍵見付かったか?」

「あ、ああ、それがさ……」

 その歯切れの悪い返事に、ムッとしながら渡辺は言った。

「なんだよ」

「……見付かったよ、財布から出てきた。前見た時は入ってなかったはずなのに……」

「マジかよ」

 クラスメイトの視線が一斉に黒江へと向けられる。

「よ、よかったね……」

 黒江の言葉を無視し、一郎は続けた。

「まあ多分、僕が見落としてたんだろうけど……」

 早速、渡辺が調子よく便乗してくる。

「ならさぁ黒江。俺の宝くじ当たるように祈ってよ!まあ買ってないけど!?」

「そ、そういうあまりにも凄いことは無理。小さい、さ、ささやかなものしか……」

「なんだよ使えねー」

「あはは」と、幾つかの笑い声が上がった。

 そんな中でボソリと、机の上で仲間とトレーディングカードゲームをしていた堀内直樹(ほりうちなおき)が呟く。

「じゃあレアカードくらいなら当たるかな……」

「あっ」と、黒江は困ってフリーズした。

 一郎が介入する。

「できるんじゃないかな?それくらいなら。ねぇ?黒江さん」

 ニヤニヤと幾つもの好奇の目が向けられる中、黒江は頷いた。

「そ、それなら……多分、できる……多分」

「大事なことなので二回言いましたー!」と、渡辺。

 遠藤も続く。

「めっちゃ予防線張ってるし!どうせ無理でしょ。堀内君さ、そのキモいカードいつ買いに行くの?」

「えっ……じゃあ今日とか……?」

「なら私もついてっていい?」

「えっ」

「あ、俺も行きたい!開封するとこ見たい!いいよな!?」

 遠藤と渡辺から向けられた圧に屈し、堀内は「別にいいけど」と消極的に了承した。

 ……いい流れだ。

 すかさず一郎も会話に加わった。

「僕も行きたいけど、今日だとバイトが入ってて駄目だな……」

 すぐに渡辺が食いつく。

「えっ、お前バイトしてんの?」

「うん、学校から許可貰って先月から近くのコンビニで」

 家計を助けるためという理由があれば、例外的に認められているのだ。

「へぇ、許可取れたんだ、いいなぁ」

「まあね」

 そう答えてから、一郎は視線を堀内へ移した。

「……ところで堀内君」

「なに?」

「なんていうトレカを買うの?」

 もちろん一郎はそんなこと把握している。

 なにせ毎日教室で遊んでいるところを見ていたのだから。

 堀内は小声で答えた。

「……マジックアンドソードだけど」

「訊いてみてよかった。それなら僕のバイト先のコンビニでも売ってるんだけど、よかったら買いに来ない?」

「まあ、いいけど」

「じゃあ六時(十八時)半以降に来てよ。その頃なら店長も帰ってるし、レジで相手もできるから」

「わかった」

「渡辺君と遠藤さんもそれでいいかな?合わせて貰って悪いんだけど。どうせなら見届けたいんだ」

「俺は別にいいぜ!」

「あたしも」

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