第10話 黒江、仕掛ける
「あ、あの、私た、祟り解けるかも、知れない」
昼休み。
皆が弁当を食べたり談笑をする中、突如椅子から立ち上がるなり黒江はそう言い放った。
教室内が俄にざわつく。
「やっぱ最近の不幸は黒江のせいってこと?」
「さすがに無いわ」
「調子乗ってね?」
「うわー自分に力があると本気で勘違いしちゃってんじゃん」
「気を引きたいんだろ」
「でも黒江ならありそう」
「こわーい」
「マジで最近嫌なことよく起こるんだけど」
多くのクラスメイトはこうやってふざけ、茶化した。
大した不幸も無かったのだろう。
しかし不幸自慢大会の中には、深刻さの割合が大きい者も確かに居た。
きっと、気が気ではないだろう。
もしも祟りならばすぐにでも収まって欲しいと、そう強く願っているはずだ。
そういった者にとっては、本来一笑に付す程馬鹿馬鹿しいことではあるが、この黒江の発言は魅力的に聞こえただろう。
一郎はちらりと二人のクラスメイトに目を向けた。
女子バレーボール部、一年生レギュラー藤咲京子。
同じく男子ソフトテニス部の、一年生にして既にレギュラーの座を手に入れた宮川陽介(みやがわようすけ)。
彼らには付け入る隙がある。
スポーツで実績を残し、メンタルがパフォーマンスに影響することをよく知っているだろうこの二人だからこそ、藁にもすがりたいはずだ。
特に藤咲にはそうであって欲しいと、一郎は思う。
彼女のクラス内カーストは高い。
女子の中でも重要なポジションに居た。
もしも藤咲を引き入れることができれば、状況が大きく変わるだろう。
そんな彼女は近くの席の女子から、話し掛けられていた。
「藤咲さん、黒江のことさっきから凄い見てるけど、もしかして今の信じてる?祟りとか」
藤咲は驚きつつも、顔の前で手を振りながら答える。
「えっ!?いやそんなの無いって無いって!多分……」
「でも最近捻挫したよね?」
「それは私の不注意だから……あはは」
「そうだよね」
「そうだよー!?」
明るく振る舞ってはいるが、どう見ても動揺していた。
一方宮川の方は意に介さない様子で、普段通り静かに席に着いている。
その身に不幸は起きていないようだ。
だが、ソフトテニス部ではレギュラーを選抜するための部内試合が近々ある。
ナーバスにはなっていてもおかしくない。
一郎は揺さぶりを掛ける意味も込め、打ち合わせ通りに黒江へとこう訊ねた。
「祟りを解くって、具体的にどうやるんだ?」
「訊くなよ、放っとけって!」と、田中から忠告される。
だが一郎はへらへらとしながら、それを無視した。
「いいだろ、なんか面白そうだし。ねえ、教えてよ黒江さん」
こちらは見ずに、黒江が話す。
「た、祟りは悪いものだから、逆に、いいことがあるように、お祈りするから……」
「ぶっは!?お祈りっすか!」そう言って、お調子者の渡辺琢磨(ないとうたくま)が大笑いした。
「ウケる、宗教じゃん」と、大して面白くも無さそうにカースト上位グループの女子、遠藤沙紀(えんどうさき)も手を叩く。
今はまだそうやって茶化していればいいさ。
一郎はなおも続けた。
「宗教でもなんでもいいんだけどさ、僕の自転車の鍵が見付かるように祈ってくれないか?スペアキーだとなんか使いにくいんだよね。まあ、どうせ無理だろうけど」
「わ、わかった……。やってみる……」
「言ったな?責任持てよ。もし数日中に見付からなかったら、鍵作らせるから。黒江さんのお金で」
まあ、絶対にそんなことにはならないんだけどな。
鍵を無くしたこと事態嘘だし。
一郎は密かに心の中で、ほくそ笑んだ。
渡辺が楽しそうにツッコむ。
「お前地味に性格悪いな鈴木!?」
「そう?だって黒江さんができるって言ってるんだし、そんなことにはならないんじゃないか?」
「確かに!じゃあいいか!」
教室は笑い声に包まれた。
そして翌日。
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