第二章 祟りを起こそう!
第6話 いじめのデメリットをわからせる
メッセンジャーアプリでのクラスグループ内に、とあるメッセージが書き込まれた。
「最近凄く運が悪い。自転車の鍵無くしたり、今日も弁当落としたし、なんか呪われてるとしか思えない」
それは些細な愚痴だったが、同情のメッセージと共に同様の体験談も書き込まれる。
「俺もチャリを駅前に停めたら鍵を壊されたし」
「そういえば俺もよくないことが多い気するわ……。朝もお袋にキレられたし、わけわからん」
「ウチも悪いことばっか。宿題やったのに忘れたし」
「あたしも彼氏に浮気されてた最悪」
「そういえばバレー部の藤咲さんも、足を怪我したってSNSに呟いてた!部活休んでるって!」
「藤咲さん見てる?ほんとに?」
「見てるし本当だよ。アタック練習中、足元にボールが転がってきてるのに気付かなくて、そこに降りてグニャッて感じで……。そういうことが無いように、みんなで気を付けてるんだけど」
「なんかみんな地味に悪いこと起こってない?」
不幸をテーマにクラスのグループトークは普段よりも盛り上がりを見せ、書き込みを知らせる通知は増え続けた。
やがて、こんなことが書き込まれる。
「まさか全部、黒江の祟りとか?」
冗談のつもりだったのだろうが、これにより更にグループトークはその勢いを増した。
「うわーあり得る。否定できねー」
半信半疑の者。
「黒江ならやりそう。ってかマジでできそう」
信じてしまう者。
「腹黒黒魔術師黒江」
ふざける者。
「黒多いな」
同調する者。
「え、待ってこわい」
本気にする者。
「さすがにそんな訳ないよ」
否定する者。
反応は大まかにこの六つに分かれる。
中でも半信半疑の者が多数を占めていた。
否定する者では無くだ。
これは異常なことである。
普通ならばこうはならない。
鼻で笑っておしまいだ。
しかし彼らのいじめをしているという潜在的な罪悪感が、それをあがなう対象を求め、その結果こういう反応が表れたのだろう。
ちなみにこの流れを作った最初の書き込みは、一郎によるものだった。
◇
日の入りが過ぎ、夜の粒子が満ちてきた境内に、まだ一郎と黒江の姿はあった。
「きょ、教祖になっていじめを止めさせるって、ぐ、具体的にはどういうことをするの?」
「そうだな……。じゃあまずはいじめをしないことのメリットと、いじめをすることのデメリットを提示することから始めようか」
「……どうやって?」
「準備をしていたんだ」
「えっ」
「……その前に、そろそろ座れば?正直、目の前に立たれてると落ち着かないんだけど」
「ごめん」
そう言って黒江は、素直にベンチの端に腰掛ける。
少しは心を許してくれたか?
あるいは害は無いと判断したか。
まあどちらでもいいが。
一郎は続きを話した。
「実はここ数週間、クラスのみんなの身に起こった小さな不幸を調べていたんだ。会話やSNS、メッセンジャーアプリ上で溢したものも、できる限り全部ね。一人につき一つ以上、不幸を仕入れることができたよ。不幸によるストレスをアウトプットすることで発散するだけじゃなく、単純に同情されることや不幸自慢が楽しいんだろうなって感じたよ」
不気味なものを感じた黒江が、怯えながら訊ねる。
「な、なんのためにそんなことを?それで何をどうするの……?」
「全部、君のせいにする」
黒江の悪い予感は当たった。
「……冗談だよね?」
「本気だよ」
いじめから救うだなんて、やはり嘘だったのだ。
そう彼女は思ったが、それは違った。
「黒江さんをいじめたことで、祟りにあったんだとみんなに思い込ませるんだ」
「あ、それが、私をいじめることのデメリット?」
「うん、そういうこと。もちろんみんなもすぐには信じないだろうけど、身に起こる不幸の多さから、やがては祟りを本気で信じ始めるだろう。もちろんそれらは黒江さんのせいなんかじゃないよ。生きていたら普通に起こるような些細な不幸でしかない。でも一度でもそれを意識してしまったら、本来すぐに忘れてしまうような小さな不幸にも意味が生まれる。それが自身や周囲に連続して起これば、そこに原因があるように感じてしまう。そして祟りに辿り着くんだ」
「そんなの、うまくいく訳……」
「僕の言うことが信じられないのか?」
びくりと肩を跳ね上げてから、黒江はすぐに否定する。
「そ、そういうことじゃなくて……。それに、もしそのやり方でいじめが止まったとして、沢山の恨みを買うことになる……。そうしたら結局、そのことが原因でまたいつかいじめが再開するかもしれない……」
「そうだな。だからそこで終わりじゃない。この話にはまだ続きがある」
◇
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