第12話 冒険者になるための試験
「小僧手加減しないぞっ!!」
「小僧じゃない…………え、え~と」
ここで本名を名乗るのはまずいよな。
そうだ、あの名前を使おう。
「アストだ」
「ふん、俺に一撃与えられたら、覚えてやるよっ!!」
強く足を蹴り上げ、こぶしを構えて迫りくる。
格闘術か。
「おらっ!おらっ!おらぁぁぁっ!!!」
素早く風邪を切り裂くような拳のが襲い掛かる。
だが、遅い。
遅すぎる、あまりにも遅すぎるな。
「くそっ!なんで当たらねぇんだっ!!」
最小限の動きで、無傷でよけ続けるアストは隙を見て、剣を抜かずに腹めがけてこぶしをふるった。
「ぐはぁ!?」
その光景に受付嬢は驚きの表情を見せる。
「う、うそでしょ」
そのまま、ガルディアは腹を抱えて倒れ込んだ。
「あれ?これで終わり?」
あまりにもあっけない。もしかして、手加減でもしてくれたのだろうか。
「勝ったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ちょっ!?うぅっ!」
思いっきり抱きしめ、胸を押し当ててくるシル。
俺は無理に引き離そうとするも微動にしない。
「くぅ、苦しい…………」
「あ、ごめんね、う、むぅんっ!?」
「シル、これからは俺のことをアストと呼べ」
「な、なんで?」
「…………偽名を使ったほうがバレないだろ?」
「たしかに」
「そういうこと」
倒れこんでいるガルディアに近づく受付嬢は心配そうに声をかけていた。
「大丈夫ですか?ガルディアさん」
「うぅ、たてん。痛すぎてたてません」
「…………はぁ?」
「え…………」
さっきまでの声とは裏腹の声を上げる受付嬢。
なんか、雰囲気が…………。
「何のために雇っていると思っているんですか?まだ一人いるんですけど」
「す、すいません」
「謝ることができるならまだできますよね?」
「うぅ…………」
なんだろう。ガルディアさんが少しかわいそうに見えてきた。
「はぁ、仕方がないな」
俺はガルディアさんのところまで近づき。
「すいません。少し触れますよ」
すると、ガルディアさんが突然、立ち上がった。
「おおおっ!痛みがなくなったぞ」
「な、なにをしたんですか?」
「え?少し痛みを和らげるおまじないをしただけですけど、それよりこれで続きができますよね」
「え、ええ、ガルディアさんできますよね?」
「あ、はい。できますっ!!」
「それじゃあ、俺は観客席に行きますので」
痛みぐらいなら回復魔法でいくらでも直せる。
使い道はあまりないと思っていたけど、案外使えるんだな。
「じゃあ、がんばれよ、シル」
「うん、しっかり見ててね、う…………アストくん」
観客席に移動すると、シルはなぜかストレッチを始めた。
「準備はよろしいですか?」
「いつでもいいよ」
「俺も大丈夫だ」
「それでは始めてくださいっ!!」
そして、結果は予想通り、シルの強烈な一撃があそこに直撃し、見事合格した。
「勝ったよっ!アストく~~んっ!!」
「あれが素じゃないから。恐ろしいよな」
「うぅ…………痛い、痛すぎる」
あそこを抑え、まるで赤ん坊のように丸まっているガルディアさんのもとに受付嬢が近づき、辛辣な視線を送る。
「ガルディアさん」
「んっ!?」
「あとでお話がありますので、覚悟しておいてくださいね」
何やら、二人で話しているようだが、見なかったことにしよう。
「お二人は無事合格ですので、手続きの案内をいたしますね」
「お願いします」
受付の場所まで戻ると、名前などの書類を書き無事にすべての手続きを終えた。
「それでは、アスト様、シル様。これで無事冒険者です。おめでとうございます、つきましてはこれをお受け取りください」
受付嬢から渡されたのは【E】と銅で書かれたバッチを渡された。
「これは冒険者ランクを表す身分証明書です。ランクに応じて受けられる依頼が分かれていますので、依頼を受ける際はご注意ください。ランクを上げる際には冒険者ギルドが指定する依頼を達成すれば、上がりますので、その時またお声をかけてください。それではご武運を」
こうして、俺たちは冒険者になった。
「…………ねぇ、アストくん」
「どうした?」
「私たちが受けたい依頼、冒険者ランクB以上からだって」
「…………さてと、さっさと上げますか」
「知らなかったんだね」
「しょうがないだろ」
まさか、依頼にランクの指定があるなんてな。
うすうす感じてはいたけど。
「あの、いいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「今すぐ、冒険者ランクを上げたいんですけど」
「すいません。冒険者ランクを上げるには1週間以内にある程度の成果が必要になります」
「あ、そうなんですか」
まじか、それじゃあ、ランクを上げられないじゃん。
「どうするの?アストくん」
「…………どうしようか」
目立ってしますが、そのまま侵入するか?でも、もし無駄足だった場合を考えるリスクがおおきいんだよな。
「何か受けたい依頼でも?」
「実は…………はい」
「でしたら、パーティーを組んではいかがでしょうか?受けたい依頼がランクに届かなくても、パーティーを組みその中に一人でもランクを満たしていれば、依頼を受けることできますよ」
「なるほど、そんな手段が…………ありがとうございます」
「よし、シル。冒険者ランクB以上の冒険者を探すぞ」
「いいねぇ。なんか、冒険者らしくなってきたよ」
魔物大量発生している場所の魔物駆除依頼の受け付き締め切りはあと1週間。
それまでにBランク冒険者とパーティーを組む。
□■□
それから三日が経った。
「誰一人見つからない」
冒険者として依頼をこなしながら、探したものの、そもそもBランク冒険者がそんなにいない。
「今の時期、ある程度、腕の立つ冒険者は依頼で遠くに行っているのか…………どうしたものか」
「そんなに気に落とす必要はないと思うよ、アストくん」
「…………もう三日も経ったがな」
もう偽名でアストと呼ばれるのには慣れてきた。
「って食い過ぎじゃないか?」
机いっぱいに置かれた食事をモリモリ食べるシルに俺もその周りの人たちも驚愕していた。
「食事の大切さを私は学んだんだ」
「なら、そろそろ食べ終わってくれないか。今日の食事代と宿代を稼がなきゃいけないんだからな」
この三日間で冒険者としての株はかなり上がった。
積極的に魔物討伐の依頼を受け、Eランク冒険者とは思えないほど活躍した。
おかげでEランク冒険者でありながらDランクの依頼を受けられるようにしてもらった。
もしかしたら、冒険者も人手不足なのかもな。
「ごちそうさまでした」
「よし、それじゃあ、いくぞ」
お店を出て、冒険者ギルドへ向かった。
「話と違うではござらなくかぁ!!」
「うるせぇ、ここじゃあ俺が絶対なんだよ」
冒険者ギルド内で何かしらの揉め事が起きていた。
元精霊騎士の復讐者と灰色の魔女の旅々 柊オレオン @Megumen
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