第19話 第四部:ダブルベットと二つの布団

確かにここは”平川旅館”という場所であやかさんは”平川綾香”だったはずだ。しかしそんなこともあるのだなと思った。


「てかいいの?俺泊まっても、嬉しいけど」

「全然平気、さっき親に連絡しておいたから」

「でもさ、そしたらみんなでくればよかったじゃん」

「いや他の人に実家の話したことないから」

「なんで?羨ましいじゃん」

「いいように使われるのやだし、箱入り娘みたいに思われるのもやだったから」


立派な玄関からロビー?旅館では応接間というのであろうか、そこで待っていると、

「さっさと行くよ」

そう言われてエレベータに乗り、部屋についた。


綾香さんが鍵を開けるとそれは立派な部屋であった。畳敷きに真ん中にブラウンの四角いテーブル、その周りには4つの座椅子、奥には広縁というらしいが、テーブルと椅子がある謎のスペース。そして入って左には檜でできた浴槽が見えた。


「ゆっくりお風呂入ってていいよ、19時過ぎには料理持って来てくれるから」


確かにゲレンデでカレーを食べてから三時間くらい滑って一時間くらい車でお腹は空いているが、そこまでしてもらえるのかと思った。


「あやかさんはどうするの?」

「うちはまず親とご飯食べてくるよ。一人に知ってごめんね」


全然平気である。そりゃおそらくお正月ぶりの帰省なのだから親とゆっくりするべきである。


僕はゆっくりと檜の温泉に浸かった。ここ2日はスキーのせいで疲れたし、メンツの問題でも疲れが溜まっていた。

とてもいいお湯だった。浴衣に着替えて畳でゆっくりしていると、料理が運ばれてきた。

見事な懐石料理で、私はこのような贅沢をしていいのかと思った。しかし広い客室に一人で贅沢というものは少し寂しかった。

もえかと一緒にワンルームの部屋で一緒に料理を作っていた日々の方が、、、とさえ思った。


少しお酒もいただき、時刻は20時近くになっていた。すると突然ドアがあきあやかさんが戻ってきた。


「もう話終わったの?」

「一緒にご飯食べて来ただけだから」

「もっとゆっくりすればいいじゃん」

「正月帰ったし、十分」


「じゃあ今からお風呂入るから、ゆっくり飲んでて」


そう言うとあやかさんは僕がさっき入った浴槽の方へと向かった。もちろん付き合ってもないし、先輩なので、言うことを聞きつつ、待っていた。


「やっぱゲレンデ行った後の温泉はいいわ」


あやかさんは出てきた。綺麗な浴衣姿で。女性の浴衣というものはとても綺麗だなとさえ思うほど。

浴衣には髪を結びあげた方が似合う。しかしショートカットで少し濡れた髪に浴衣というのもありだなと思った。


「じゃあ布団引くわ」


そう言った後、あやかさんはテーブルを動かし始めた。


「カネキも手伝ってよ、一人じゃきつい」

「おっけーっす」


テーブルをはじにやり、押し入れから布団の一式を取り出し並べる。


「あやかさんもここで寝るの?」

「当たり前でしょ、急にとったんだから。しかも親には彼氏って言ってあるし」

「はぁ?、なにい勝手に」

「まあまあ、昨日も同じベットで寝てんだから」


広い畳、おそらく12畳ほどはある真ん中に二つ仲良く隣り合った布団が敷かれた。別に遠ざけてもいいが、それもそれでおかしいとは思ってタブルベットのように並べた。


「ねえカネキの実家ってどんな感じ?」


僕たちは旅館の奥の謎のスペース(広縁)で少しお酒を飲んでいた。


「うちはあやかさんの大学の近くだよ、普通の一軒家で父親は単身赴任で、兄弟は家を出てるから母親と犬と暮らしてる」


あやかさんは缶チューハイを飲むだけだった。


「こんな立派な実家いいじゃん、羨ましい」




「うちね、この旅館つぐんだ、一人娘だし」


(なるほど、だから就活とかはしなかたのか)


「いいんじゃない?そういうのも」

「でもなんか自由がいいなっても思って」

「後一年あるしゆっくり考えればいいよ」


僕は適当な答えを返してしまった。なんと返せばいいのかわからなかったのだ。


「じゃあそろそろ寝ようか、疲れてるし」

「そうだね、こんないい旅館用意してもらったし、ケイ先輩とかには言った?」

「温泉施設二十四時間営業だから、朝帰るってだけ」

「向こうは気にぜず楽しめるね」


「じゃあうちらも楽しもっか」


(これは誘われているよな)


「何言ってんですか、酔った?」

「いや、そこまで」


とりあえず僕たちは布団に潜った。


「なんかあ嫌なことあった?この旅館来てから元気ないけど」


そんな気がしたので聞いてみた。


「うちね、ケイのこと好きなんだよね、だけど今さっちゃんいるし」


(なんであいつモテるんだ)


「でもこん2日カネキといて元彼のことも思い出したけど笑い話にできたし、ケイよりなんか可愛いところあるし」

「でも俺、もえかいるけど」

「もう半年くらい会ってないでしょ、それにいいじゃん、バレっこないし」


僕は困惑しつつ、確かにとさえ思った。


そこからはお互いに浴衣の帯をほどいて二つある布団お片方しか使わなかった。

あやかさんの肌はマシュマロのようで、特に頬なんてマシュマロを磨いたような、柔らかく、そして艶があった。

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近所の恋から遠距離へと @kimcas

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