第18話 第四部:平川旅館
朝は昨日の鍋のスープに生姜を足してスープとして飲んだ。
昨日は星空しか見えなかった景色が一変、雪化粧した山が連なっている。
今日は一日中ゲレンデにいる予定だ。今回のスキー旅行は2泊3日の予定なので、中日の今日はいつまでも滑れるとみんな意気込んでいた。僕以外。
澄んだ空気に快晴、冬の朝は本当に空気が美味しい。そう思いながらスープを片手にタバコを吸っていると、あやかさんが
「また空気汚してる」
「こんな一本じゃなんも変わらないよ」
「じゃあうちもやってやろ」
そう言って僕のタバコをとって火をつける。
何が綺麗で何を汚しているのか分からなかった。
あやかさんの頬はすごく綺麗だった。
僕は相変わらず初心者コースであやかさんと滑っていたが、だんだん楽しくなってきた。行きは体を動かすのにも精一杯であった筋肉痛がだんだん温まってきてほぐれてきて、慣れもあり初心者コースは完走できるようになった。
四人でゲレンデカレーを食べると
「じゃあうちケイと上級者コース行ってくるから」
あやかさんはそう言ってケイ先輩と上の方まで登って行った。僕はさっちゃんと中級者コースに向かった。
「カネキはさ、もえかとどうなってるの」
僕はその名前を聞いて何故かぎくっと驚き、同時に罪悪感も覚えた
「まあたまにラインしてるよ、そんなもん」
「うちもラインするけどドイツって遠いね、返事返ってこないもん」
「それ遠さじゃないよ」
さっちゃんは本当にバカなのだ。
「こっちが昼の十二時だったら向こうは朝の五時だし、きっと留学先の勉強忙しいんだよ」
でももどかしさは僕にもある。返事は遅いし、最近は全く電話もしていない。向こうも忙しいだろうが、僕もなんだかんだでバイトをたくさん入れているせいだろうか、時間が合わないのだ。
午後の二本目からはみんなで中級者コースで滑っていた。ケイ先輩にバカにされ続けたが、最後の一本でアックルをかましてやったから満足だ。進路をコントロールできるくらいには上達した。
なんだかんだ疲れていてみんな15時くらいには滑り終わった。そして昨日も行ったスーパーで買い出ししてコテージに戻ったのが16時過ぎだった。買い物はまたさっちゃんが張り切っていたので僕はお酒でも見に行った。
しかしあやかさんが
「今日はそんな飲まなくていいんじゃない?昨日の残りもあるし」
「でも足らなくない?」
「足りなくなったら買いに行けばいいよ」
(コテージの近くにお酒なんて売ってないぞ)
結局16時すぎにコテージに戻り楽な格好にそれぞれ着替えて昨日と同じように何か作るのかと思っていると、
「カネキさ、筋肉痛でしょ、温泉行こ」
あやかさんが言った。
まだ時間も早いし、ある程度近くならいいなと思った。
「いいね、みんなん疲れてるしここのシャワーじゃ疲れ取れないし」
僕は答えた。
「俺らはいいや、そんな疲れてないし、二人で行ってこいよ」
先輩が言った。
(え、、、どゆこと)
「じゃあケイ車借りるよ」
「事故んなよ、実家のだし」
「大丈夫、この辺はなんとなく道わかるから」
「ほら、カネキ着替え用意して!行くよ」
そこでようやくわかった。これは僕以外で計画したことなのだと。
要するにケイ先輩とさっちゃんは二人になりたいから邪魔者は少し外に出てこいということだ。
ということであやかさんと二人で温泉に行くことになった。今は隣でナビを入れている。
「あやかさんって運転できんだ、この車結構大きいけど平気?」
「舐めんな!うちもこの辺で育ってるし免許は20になる前にとってある」
「じゃあ帰りは運転手3人じゃん、ラッキー」
「いや、高速とかやだから二人でなんとかして」
本当に大丈夫かなと思った。
何もない道を走る。冬だからか17時前でももう暗い。何台かの車とすれ違うだけで今のところは安全運転だ。しかしナビを見るとまだ目的地まで一時間もある。
「こんな遠くまで行くの?」
「ある程度時間かけないとでしょ」
「目的地ってこれどこ?」
「なんかの旅館、そこの温泉に行くの、うち昔行ったことあるから」
(そっか、あやかさんこの辺出身なのか)
「そういえば就活とかしてんの?もうあやかさん三年の冬でしょ」
「就活ねぇ、、なんも考えてない」
「大丈夫かよ、ケイ先輩もう内定一個もらったって言ってたけど」
「いいのうちは、そーゆーの関係ないから」
「ついたよ」
そう言われて顔を上げると立派な旅館であった。これは間違なく高級旅館だとわかる。綺麗な庭園にオレンジの門灯が多くあり、荷物を受け取るポーターの姿まで見える。
あやかさんはそのまま駐車場に停めてエンジンを切った。
「すごい綺麗なところだね、こりゃ疲れも取れそうだわ」
「まあね」
「日帰りの温泉はどこから入るの」
「そんなのないよ、部屋についてる」
(どゆことだよ、一時間ちょいかけて来たのに)
「今日、ここ泊まって行こうか」
何を言っているのか、何を考えているのか見当もつかなかった。いくらなんでもあの二人のために違う場所に泊まるなんてやりすぎではないだろうか。冗談だろう。
「さすがにこんな高そうなところ、お互いきついっしょ、それに予約なしで、、、」
「大丈夫、ここうちの実家だから」
ケイ先輩の実家の車の分厚いドアが閉まる音が響いた。
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