出会い part2

 「…………」


 「どうした? さっきからだんまりじゃないか」


 なぜこんなことになったのだろう。

 真愛まなは分かれ道を進もうとした先のことを思い出す。


 「こ……のッ、何よコレ!!」


 淀んだ虹色の光が変じた霧の巨腕。それに掴まれて、猛スピードで通路を突き進む。

 どこまでも続いていると錯覚させる、同じ造りの通路。まったくスピードが落ちる気配はない。


 「いい加減で……ッ、放しなさいよ!!」


 両手から炎を噴出させて、巨腕を殴りつける。

 だが、どういう理屈か、自身を掴んでいるはずなのにこっちの攻撃はすり抜けて床を焼き焦がし、まるでレールのように焦げ跡が二本伸びていく。


 「チッ……どうなってんのよッ!! てか、どこへ連れていくつもりなのよ……?」


 握り潰されるような様子もないので、一旦抵抗しないで運ばれるままに任せる。

 その間に、霧の巨腕に色々試してみるがどの魔法も効果が見られない。炎は当然。水も雷も全て霧を僅かに散らすのみで大勢には影響がなかった。


 「おや? 誰かと思ったら、勇者サマじゃないか」


 キン、と小さくも甲高い音と共に鈴のような可愛らしい声が真愛まなの耳に飛び込んできた。

 それと同時に、今までなんの変化も見られなかったはずの霧の巨腕が斬り裂かれて霧散していった。


 「ちょッ!? いきなり止まれるワケないのに!!」


 かなりのスピードが出ている中で、いきなりそのスピードの元がなくなってしまえばどうなるか。

 真愛まなの体は宙に投げ出されて、そのまま硬い床に激突して真っ赤なミンチ肉、最悪それも残らずに単なるシミになってしまう。

 そんなことを許容できるはずもなし。真愛まなは、全神経を傾けて両手から勢いよく炎をジェット噴射のように発生させる。

 体に急制動がかかって、今までのスピードが一気に落ちる。そのまま噴出させ続けて、なんとかその場で踏みとどまる。

 

 「あっぶな……、マジで死ぬとこだったわぁ……」


 「ほぉ……流石、やるものだ」


 人が死ぬ寸前だったというのに、それをまるで見世物かのように口笛を軽く鳴らしながら呟く声。

 真愛まながそちらの方へと視線を向けると、そこにいたのはとても長い、途中で折り返しても尚腰まであるプラチナブロンドの髪を束ねた少女、つまりは勇者フローラだった。


 「アンタ……」


 戦うべき敵。

 鋭い敵意を隠そうともしない真愛まなは拳を握ってフローラを睨み付ける。

 だが、そんな今にも飛びかかりそうな真愛まなを見ても、目の前の少女は落ち着き払って、薄く笑いながらこう言った。


 「ハハ、クアージャでとは随分と違う態度だね。せっかく助けてやったというのに、礼の一つもないとは」

 

 「アレを助けたって言い張るようなヤツには当然だと思うけど?」


 「あの程度もどうにか出来ない者が、ここまで来れるはずもないのでね。ま、そんなことよりも……」


 そこで一呼吸置いて、フローラはその美しい瞳に冷たい殺意を乗せながら、質問を投げ掛ける。


 「こんなところまで、一体なんの用だい? まさかお散歩……だなんて言うつもりではないだろう?」


 「教えてあげたいのはやまやまだけど、あーしもよくわかってないよのねぇ。セシリーは遺伝子改造がどうのって言ってたけど、ここに来たからってどうするつもりなんだか」


 スペディア帝国が仕掛けてきて、もう一人の勇者と戦わなければならない。

 そのことが、この製薬会社の工場とは上手くイコールで繋がらない。さっさと勇者を倒すか、城を落とす方が手っ取り早いと感じてしまう。


 「セシリ……ああ、あの堅物の騎士サマか。フフ、案外クレバーな面もあるんだな」


 「は? どういうことよ」


 真愛まなの疑問を無視して、なにがおかしいのか一人で勝手に楽しそうにしているフローラ。

 そして、そのまま剣を抜くこともなく踵を返して通路を歩き出す。


 「ん? どうしたんだ、来ないのか?」


 「は?」


 フローラの言葉に、ポカンと口を間抜けに開けてしまう真愛まな

 一瞬、何を言われているのか理解できずに思考がフリーズしてしまう。


 「(コナイノカ……? コナイノカって何?)」


 「怪我でもした……というわけではなさそうだな。なら早くしろ」


 「……ちょ、ちょっと待って。まさか、一緒に行くっての?」


 当然だろ、とでも言いたげな視線に、真愛まなもようやく言葉の意味を理解して今更ながらに驚く。


 「ええ!? なんでよ、あーしとアンタは敵同士なのよ? それなのに、なんで一緒に……」


 「フッ、案外小さなことにこだわるんだな。単なる気まぐれだよ。デアマンテの勇者がどういった人間なのか、少し興味もあってね」


 ツカツカと足を進めるフローラに、慌てて後を追いかける真愛まな

 もちろん罠かもしれない。だが、どのみち進む先は同じ。

 だったら、一緒に行動しようがしまいが同じことだと考えた。


 「そういえば、まだ名乗ってなかったな。ワタシはフローラ、知っての通りこの国の……まぁ、一応は勇者だ」


 「あーしは真愛まな四条真愛しじょうまなよ」


 それぞれの名を名乗って、二人は改めて歩き出す。

 奇妙な事になったものだ、と思いながらも、真愛まなはもう一人の勇者を横目でチラチラと見る。

 頭一つほど小さなその体に秘められた凄まじき魔力。それが、今まで見てきた者たちと同じように造られた力なのだろうか。

 自由に行動できている姿を見ると、あまりそうは思えなかった。


 「ワタシも同じだよ。キミがここに来るまでに見たモノたちとね」

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ギャルゆーしゃちゃん ~ギャルのあーしが伝説の勇者!? だったら異世界だって、アゲアゲ無双でよゆーのトコロを見せちゃいますか!~ 雲居ケイイチ @kumoikeiitchi

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