第45話 いいニュースと悪いニュース

「いらっしゃいませなの! 何名様で……」

「持ち帰りだ。オコノミヤキ5つ頼む!」

「かしこまりましたなのっ」

「全部で2500カヘや。アリス、5人前追加な!」

「わかった!」


 お祭り屋台の「はしまき」の要領で、私は固めに焼いたお好み焼きをくるくるとロール状にまとめる。

 ご存じない方のために説明すると、「はしまき」とは割りばしを軸にお好み焼きを巻きつけ、歩き食いをしやすくしたものだ。

 私は割りばしを使わない代わり、ロールしたお好み焼きを竹の皮に似た葉っぱで包んだ。


「レオポルド、7番のお客様にこの6人前持ってって!」

「うむ、わかった。6つで注文した7番はどこだ?」

「おー、クバル豹型魔獣・フェテランの兄(あん)ちゃん、こっちだこっち!」

「待たせた。熱いから気を付けろ」

「うっはぁ、これが噂のオコノミヤキかぁ!」

「まいどー! おおきに、また来てやー!」




「思っていたのと違うー!!」

 一日中厨房でお好み焼きを作り続けた私は、閉店後にテーブルに突っ伏す。

 ちなみにテーブルには、全く出番のなかった食材で作った塩牛丼とすまし汁、浅漬けが並んでいた。

「なんで!? どうして注文は持ち帰りのお好み焼きだけなの!? 私がやりたかったのはイケモフカフェだよ! 獣人ホストクラブだよ!! でも食事内容が内容だから、妥協して食事処にしたのに、これじゃ食事処ですらないー! 完全にお好み焼き屋だよー!」

「あぁ。確かにこの店、オコノミヤキ屋さんって呼ばれとんなぁ」

「呼ばれてるし!! だいたいパティのその口調が、ハマり過ぎなのが悪い!」

「何言うとんねん」

「レオポルドのおしゃれ系の茶色エプロンも、だんだんそれっぽく見えて来たし~」

「えっ、自分がどうかしたのか?」

「頭にタオル巻いて、両手にコテを持った姿、めちゃくちゃ似合いそう~っ!」

「頭にタオルと、両手にコテ……」

 レオポルドは食事の手を止めると、厨房へと入って行く。

 そしてタオルを素早く頭に巻き付けると、フライ返しを両手に持った。

「アリス、こうだろうか?」

「あ゛ーっ! ヤバいくらい似合ってる!! もう! 最高!! レオポルドがモフケモお好み焼き屋店長だったら、毎日通い詰める!」

「いや、店長はアリスでなくては」

「レオ~。アリスの言うこと、いちいち真に受けんでえぇんやで~。戻ってきてごはん食べやぁ」

 レオポルドはこちらをちらりと見る。

 私が頷いて手招きすると、フライ返しを置き、タオルをはずしながらテーブルへと戻ってきた。


「でも、本当になんでぇ? ビックリするくらい、テイクアウトのお好み焼きの注文しか入らないんだけど」

サンドイッチニシュドカにちょい飽きてた人らが、案外多かったんかもな」

「アリスのお好み焼きが売れるのは当然なの! 最高に美味しいから、ボクもいくらでも食べられちゃうの!」

「コリン~、ありがと~」

「まぁ、何でも売れ行きがえぇのは歓迎すべきことちゃう?」

「それはそうなんだけどぉ~」

 何かが物足りないのだ。情緒的なものが。


「ところでアリス。いいニュースと悪いニュースがあんねんけど、どっち聞きたい?」

「いいニュース」

「オコノミヤキの売り上げで、二階のベッド全部、新しい寝具をセットし終えた」

「えっ、本当に!?」

 お好み焼きの売り上げだけで、ベッド4台分のマットと布団と枕、全部買い揃えられたのか。

 ここ数日間で、どれだけお好み焼きを焼き続けたのかがよく分かる。

「じゃあ、悪いニュースは?」

「プレックが尽きた」

「プレ? ……ってなんだっけ」

「アリス、昆布のことなの!」

 コリンがすかさず翻訳をしてくれる。

 コリンのおかげで、ここの言葉を覚える必要性がないため、いつまでも学習できない。

 そんなことより。

「え? 昆布が、尽きた?」

「せや」

「じゃあ、明日は一日店を閉めて買い出しかな。そろそろ休日ほしかったし、ちょうどいいタイミングかもね」

「違うなの、アリス。昆布、この辺りでは売ってないなの」

「……ん? 売ってない?」

「アレ、海のモンやろ? この国、海に面してへんやん? せやからここらでは手に入りにくいんよな」

「……え? でも、前は普通に買えたよね? ここでも、マドカでも」

「マドカでは、海の方から来た行商人さんから買ったなの」

「そうだったっけ」

「そうなの、ボク覚えてるの。それでね、これまでここグランファでも買えてたのは、他の人は誰も昆布買わなくて、店の奥に眠ってたからなの」

「え? 他の人は昆布買わないの? 売ってるのに?」

「なの。見た目が黒くてベロンとしてるから、みんな欲しがらないって、お店の人言ってたなの」

 あ、なんか元の世界でも似たようなことを聞いたことある。

 あれは海苔だったっけ?

 黒い紙みたいで食べる気にならない、って感じる海外の人もいるって。

「でね、あれを買ったのはボクたちだけなの。お店の人、売れないからもう仕入れてないって言ってたなの。あるのは在庫分だけだって言ってたなの」

「……本当に?」

「なの」

「……え? ちょっと待って?」

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